出会いは理不尽*7
「……すみませんでしたっ……」
何故か謝る状況になった綾は、多少不貞腐れながら謝った。
確かにあの男は、蹴られた後よろけて後頭部を木にぶつけた上に、蹴られた時に舌を噛んだらしく呻いていたが。
どう考えても、突然人に向かって矢を放ち、あまつさえ人を物のように持ち上げ、綾を無視し続けた相手が悪いはずなのに。
お付きの二人に睨まれながら、綾は心の中で殿下とやらに毒づいた。
「……真に僭越ながら申し上げたいんですけど、人様に向かって突然矢を射るそちら様の常識を疑いたいんですけど。謝罪の一言もないんですか」
嫌味を盛大に込めて、へり下った言い方で文句を付けてみた。最もなはずの綾の文句は黙殺され、謝罪ではなく逆に問いただされた。
「何者だ」
「は?」
「何者だと聞いている」
またしてもぶちっと綾の理性が糸が切れた。
「それが人に名前を聞く態度? 人に名前を尋ねる前に、自分の名前を名乗るのがマナーでしょ? それに興味深そうに人の顔を観察してる殿下とやらが、まず謝罪をして名乗るのが筋ってもんじゃないの? どこの誰だか知らないけど、人に矢を射てはいけないっていう常識もご存知ないんですか、あなた方の殿下とやらは。随分なご身分ですね、顔を洗って出直せば」
限界まで怒りを押さえていたせいか、とうとう言いたかったことを全て言ってしまった。
いや、私は悪くないし! 蹴ってしまったことは謝ったし、舌を噛んで後頭部をぶつけてたんこぶできて痛いかもだけど、私だって痛かった。お互い様なはずた。綾は開き直った。自称王子も謝るべきだ。
お付きの男の目付きが変わる。どうやら綾は言い過ぎたらしい。やばい、殺される?
「……失礼した。私はエンファルコード=ガーディアと言う。貴方の名前を教えて頂きたい」
「殿下!」
「いい。女性に矢を放つという非道極まりない所業をした上に、女性の顔を傷つけた。深くお詫び申し上げる。そして、名前を教えて頂きたい。できればご身分もお聞かせ願いたい」
金髪碧眼の男に頭を下げられ、謝罪をされて名乗れたのでは、綾も折れざるをえない。
「……アヤ。沢村綾。高校三年」
この理不尽極まりない出会いが、これからの綾の人生を大きく変えることになるなんて、この時の綾は思い付きもしなかった。