出会いは理不尽*6
口を開こうとする王子もどきの男を遮るように、少し控えめに後ろに下がっていた二人の男のうち一人が、やや早口に言葉を発した。
「殿下、捕縛して連行しますよ」
「まぁ待て。まだ子どもじゃないか」
「あの、ちょっと」
子ども扱いされた綾は、そこで一言物申し上げたかったが、王子とそのお付き人は聞く耳を持ってくれなかった。
「怪しい者には違いありません」
「うーん……」
「悩むほどの事ですか」
いや、まず人を射たことに驚愕し、そして謝罪してほしいんですけど、綾はそう突っ込みたかったが、王子は何やら違うことを考えているらしい。
「いや、見たことのない服装をしているな、と思って」
「ちょっと人の話を聞いてくださいっ」
再び綾は会話に割り込んでみるが、まるで無視。もう少し、もう少しだけ我慢をすることを理性に強いた。
「怪しすぎます」
「分かってないなシシリア。庶民の流行かもしれないよ?」
「だから人の話を聞いて……!」
「また殿下はそういうめずらしい物に興味を覚えただけでしょ?」
「見たことのない髪の色に服装。気になるだろう」
「殿下が興味を覚える程の物ではありません。怪しい者を近付ける必要もありません」
「窪みにはまる間抜けがいるか? 見事にこうもはまる間抜けはそうそう居ないだろう」
「確かに、こんな間抜けが一味とは思えませんがね。」
「そうだろう?」
どこまで綾の理性が保つか試されているのだろうか。間抜け間抜けとどこまで人を馬鹿にしているのか。怒りで綾の手が震えてきた。
だが、綾はまだ怒りを押さえた。万が一、万が一だ。何らかの誤解もあるのかもしれない。人は誤解をする生きものだ。
綾は理性を総動員し、拳を握り締め耐えた。綾の話を聞いてもらわなければ。そして何より、下ろせ。
「だから本当に貴方たちいい加減に話を」
「ヒーリア、この黒い目は本当に綺麗じゃないか」 「綺麗ですけど、何か気味悪くないですか」
「そうか? 神秘的じゃないか」
「殿下……! 駄目ですよ! それにその紋章は!」
「いい加減に人の話を聞いて、私を下に下ろせー!!」
散々無視された綾の理性は、最後まで保ちはしなかった。
勢いの乗った右足は、そのまま上に上がり、全身の力と怒りを込めた渾身の蹴りは、王子とやらの顎に華麗に決まった。