出会いは理不尽*3
「うぅ……」
目を覚ますとまだ昼過ぎのようで、そんなに時間は経っていないようだった。
少しは疲れが取れているようだが、木の根元でうたた寝したせいか体が痛い。
立ち上がって体を伸ばし、荷物を背負った。
ここからどう進むか。このまま進んでも森の奥に入り込むだけで、人里に近づくどころか、逆に遠ざかることにはならないだろうか。
背後を見ても、今まで見ていたとにかくだだっ広い大草原があるのみで、引き返しても何にもならないことを示している。
ならば前に進むか、と自棄になりながら決めた。
ただ真っすぐに進んでも自滅するだけなので、鞄からタオルを取り出して、鋏で縦長に細く切っていく。これで枝などに結べば、道に迷うことなく探索はできるだろう。
こういう時に役立つとはね、綾は苦笑した。
『お前の鞄は無駄に大きい上に、重たすぎる』
常々大地に小言をくらっていたのだ。
こんな状況であまり役立って欲しくはないが、入れていてよかったと再び苦笑した。
入り口付近にタオルの切れ端を結び、奥に入っていく。ある程度進んだら、また切れ端を結ぶ……という行動を繰り返すが、ますます奥に入り込む感じがする。このまま進めば出れないんじゃ? と綾は不安になってきた。
何よりここに熊はいないのだろうか。鹿ならまだしも、熊や狼に猿とか鷹とか止めてほしい。襲われたら確実に死ぬ。 冷や汗を掻きながらも、歩みを止めずに前に進んだ。
しばらくまた前に進むと、茂みの奥の方で何やらがさがさと動いている。
綾はびくっと体を震わせ、恐る恐る茂みに何がいるか確かめようて動いた時だった。
空気を切り裂くような音が鳴り、綾の頬を何かが掠め、傍の大きな木に刺さった。
「…………!?」
木に刺さったそれは長い矢だった。放った勢いの強さを示すように、大きく揺れている。
恐怖と驚きのままに、綾はその場に座り込み、矢が擦った頬に手を当てた。
「……あ……」
指がぬるりと滑り、指から血が流れていた。
どうやら軽く掠めたはずなのに、案外強く掠めていたようだ。思っていたより多い出血量に、新たな動揺が加わる。
早くこの場から離れ、安全な位置を確保する必要があるのに、恐怖で固まった綾の体は言うことを聞いてくれない。
その時森の奥の方から、何かが走ってくるような音が聞こえてきた。微かな話し声まで聞こえてくる。
極限まで恐怖が体を支配した時、ようやく綾の体が動いてくれた。何とか体を立ち上がらせ、全力でその場から走りだした。
何でこんな目に遭わなければならないのか。
「勘弁してよ、神様……!」
綾は空にそう毒づいた。