出会いは理不尽*2
腰の高さまである草を掻き分けながら前に進む。歩けども歩けども原っぱは続いている。
「ちょっと……、本当にここどこなのよ……。建物すら見えないし」
かれこれ数時間は歩いているが、建物はおろか道も見えない。
途中休憩も挟みつつ移動するが、どこまで行っても変わらない景色にため息しか出てこない。
しかもバイト帰りの事故の時は夜だったはずだ。目を開けたら、夜明けのように空が白み始めていた。
そして今太陽は頭の上だ。ちなみに携帯の時刻は真夜中。本来なら、暖かな布団の中で眠りについている時刻である。
多少イラッとしながら、綾はもう一度時刻を確かめる。そろそろ体力も尽きそうだ。
眠ろうにも外だし、何があるか分からないので、迂闊にその辺で寝転ぶわけにもいかない。とりあえず長い草を倒して、再びため息を吐きながらその場に座った。
鞄からカロリーメイトを取出し、もそもそと食べる。すぐに食べ終えて、鞄からペットボトルを取り出して、水を二口飲む。
それらを鞄にしまい、体を草の上に倒した。
学校に行き勉学に励み、バイトに出て勤労に従事する、日常生活のために買い物をして、帰る間際に事故。やばい死んだと思いきや、気が付いたら大草原。神様、何のイジメですか。
無事に帰ったら、寺か神社に行って、盛大に文句を言いに行こう。綾は心の中で深く誓い、軽い勢いをつけて立ち上がった。
再び歩き始めて、更に数時間。ようやく前方に森が見えた。
「…………森かよー!!」
叫びたくもなる。人でもなく建物でもなく道路でもなく、森。しかも鬱蒼とした深い大きな森。どうしろと。
さすがに泣きたくなったが、どうしようもないのでとにかく歩く。
ひたすら歩いて森に着き、そこで体力も尽きて、大きな木の根元に腰を下ろす。太い木にもたれ、荷物を脇に置いた。
全身に深い疲れが蓄まっているのが分かる。
抵抗できないほどの疲れと眠気に、目を閉じて体の力を抜いた。
ちょっとだけなら大丈夫だろう。意識が眠りの底に沈み始めた。
「……大地……」
もう一人の自分の分身、双子の弟の名前を口にして、綾は束の間の休息に身を任せた。