君の名は *2
「ジャンダール・アガート! あんたは十八歳にもなって弱い者イジメをするのか! いい加減にその捻くれ曲がった根性を叩き直せ!」
綾が投げつけたスリッパが逃げる男の後頭部を激打した。
「……ア……アヤ、物凄い音がしたんだけど……」
肩をそびやかした綾の隣に立つ線の細い男が、綾とすっ転んだ男をおろおろと見やった。
「すごいいい音したわよね。さぞかし頭の中が空っぽなんでしょうよ。ったく、ナリはでかいくせに、中身は小さいわよね。どうせ」
「わーー!! わーー!! わーー!!」
「も小さいに決まってるわよ。ってかレジィうるさい」
「アヤ!! 女の子なのにそんな下品な言葉使っちゃ駄目だよ!! お嫁さんに行けなくなっちゃうー!!」
「レジィは女の子に夢見すぎ。みんなこれぐらい思ってるわよ。心の中で馬鹿な男を罵詈雑言」
「いやいやいや。アヤはもうちょっと恥じらいを持とうよ……。恥じらいというかデリカシーというか」
「そんなのあってもお腹一杯にならないし」
「そういう問題じゃないよ!」
「そういう問題だけど」
「うるせぇてめぇら! 人の頭の上で漫才やってんじゃねぇよ!」
後頭部にスリッパが激打し、バランスを崩して見事にすっ転んだ男ーーージャンダールが叫んだ。
「……すっ転んだ奴にそんなこと言われてもね。……かっこ悪……」
綾に失笑され、浅黒い肌を真っ赤にしてジャンダールは押し黙った。