君の名は *1
た、大変お久しぶりです。
異世界ガーディアナ王国。
そこが現在の綾の生活して行く地となる。
なんとか衣食住を確保し、仕事も見つけて路頭に迷わずにすんだ。
案内された客室は、元の世界で自分が住んでいた部屋の軽く五倍程の広さがある。
動揺する綾に、
「ちょっと狭いけど我慢してね」
と、すまなさそうにするヒーリアに、綾は開いた口が塞がらなかった。
「まぁ、とにかく不審な行動や余計な言動はくれぐれも慎んでもらいたい。その言動によっては、君の行動を制限することになる。いいね?」
少し冷たい感じのする眼差しで、ヒーリアは綾を真正面から見据えた。
「今後の仕事に関しては、また後日説明させてもらうよ。食事は部屋に運ばせる。手洗いと風呂は侍女に案内させる。今日は疲れただろうから、ゆっくり休むといい」
何だかんだと牽制してくる割りにはやけに世話を焼いてくれる彼は、基本的に良い人なのだと綾は思った。
「有り難うございます。本当に助かります」
頭を下げる綾に、ヒーリアは器用に片眉を上げて少し笑った。
「これでも悪いと思っているんだ。何の罪もない君に矢を放ち傷つけたんだから。そんな相手に礼を言うのだな、君は」
綾は首を傾げ、
「そのことについては十分謝罪を頂きましたし、これから暫らくお世話になるんですから。お礼を言うのは当たり前ですよ」
「君にとっての常識は、この王宮では全く通用しない。甘い考えはよしたほうがいい。この貴族社会は、目を背けるほどに醜悪で欺瞞に満ちていて汚れている。……君の美徳が損なわれないよう願う。では、また。失礼する」
音もなく扉を開閉してヒーリアは出ていった。
セレブな世界にも色々あるんだなー、大変だな関わりたくないよなー、綾はどこか他人事のように思っていたが、後に嫌と言うほど思い知らされることになる。