閑話:優しさとナンパは紙一重・前編
「じゃあ、今日はこの辺で宿を取ろうか」
王子が笑顔で宣言した。
「まだ日が高いから先に進めますよ?」
「この先は当分宿がないだろう。ここで休んで、次の日からまた進んだ方が効率がいい」
野宿には抵抗ないけど、セレブな方々に野宿をさせるのは確かに忍びない。
その前に切実な問題がある。
「真に申し訳ないんですけど、当然ながら私はこの世界のお金を持っていません。すみませんが、後で働いて返しますので宿代諸々貸してください」
「それには及びません。当面の貴方の生活費はこちらが持ちますので、お気になさらなくて結構です」
黒髪のヒーリアさんが無表情でそう言った。気に入らないのはしょうがないとして、せめてもう少し愛想良くしてはもらえないだろうか。大人気ない。
そう思いながらも、王子一行に付いていくと、しばらくして町の中心ほどにある宿に着いた。
……宿じゃないよ……超豪華ホテル規模じゃないか!
「……あの……、宿泊費超高そうなんですけど……」
「まぁ、王族ご用達の宿だしね」
「……お金を返すの分割払いにしてもらっていいいですか……、ていうかもう少し宿ランク落とせませんか……?」
「だからお金は気にしなくていいって言ってるのに」
にこにこしながら王子が言うけれど、逆に信用できない。宿泊費はまたあとでこっそり調べよう。四回くらいで支払えるといいけど。利子は無視しよう。
部屋について荷物を下ろした。ようやく肩が軽くなる。
セレブなのはもういい。だけど、たかだか四人泊まるだけで、この広さはおかしい。客室があるのはいい。ダイニングとかキッチン、主寝室めいたものもある。……セレブめ……! 六畳の部屋とかトイレの広さかよ! 落ち着かねぇよ!
「ちょっと狭いかもしれないけどごめんね?」
もう黙ってくれないだろうか。
何やら相談してる一行を余所に、私は荷物の中身を確認した。
幸い生物は入っていない。この先何かあった時のための大事な食料だ。
ふと気配を感じて顔を上げると、王子が興味深そうに聞いてきた。
「何か色々入ってるね。一体何が入ってるの?」
「ここに来る前に買い物をしていたんです。食料てか日用品ですね。大量に買ったから、カバンパンパンですけど」
あまりに興味深そうなので、草原で食べていたカロリーメイトを一つあげてみた。ちなみにフルーツ味。
「これは?」
「カロリーメイトっていいまして、携帯食料です。ビスケットとかクッキーみたいな触感で美味しいですよ」
「へぇ……」
「色んな味がありますよー。この一箱で一日は保ちます。必要なエネルギーとか含まれてるので、すごくお役立ちな一品です。欠点はやたらに喉が乾くくらいですね」
そう説明していると、王子は何の躊躇いもなく、ぱくっとカロリーメイトを食べてしまった。
私があげたんだけど、毒味とかいいのだろうか。勿論毒など入っていないが、王子なんだから気にしたらどうなんだろう。
王子はぱくぱくと一本をあっという間に食べてしまった。
「携帯食料にしては結構美味しいねぇ」
「美味しいんですけど、確実に栄養は偏りますね」
後はインスタントラーメンとかガム、のど飴、缶詰め、ふりかけ、レトルトパックとか、ごちゃごちゃ入っているものを説明していると、王子はすごく楽しそうに聞いている。
「アヤの世界は文明が進んでいるんだね」
「そうですね。私の世界はすごく便利だけど、この世界にあるような色んな大切なものを無くしている気がします」