現在位置身分不確定*6
このまま流されると、何かしらよくないことが起きる気がする。綾はそう感じて、咄嗟に提案した。
「王宮に住むことになるなら、何か仕事をください。騎士の紋章って言うことは軍隊があるんですよね? 軍の仕事でも何でもやります」
「貴方は女性でしょう?」
呆れた口調でヒーリアが答えた。
「実戦の経験はないですし、さすがに警備とかできません。でもさすがに雑用とかありますよね? その類の仕事します。食堂とかあるなら賄いでもやります」
「何を言っているんですか。さっきも言いましたが、貴方の紋章は星ですよ? そんなことさせられる訳がない。ましてや、異世界の人間に軍の機密に携わる仕事を任せられる訳が」 「まぁ、いいんじゃないか」
「殿下!」
「仕事をしてもらって、王宮の客室に住んで頂こう」
「駄目です! いけません!」
激しく反対するヒーリアに、綾は複雑な思いで一杯だ。言っていることはよく解る。解るのだが、そこまで怪しい人間じゃないと思う。彼らにしたら、異世界の人間。つまりは未確認生命体。綾は自分がエイリアンのような気がしてきた。
存在を否定されることは、自分の世界でも慣れっこだ。血の繋がりでさえ、存在を否定されているというのに。
今の自分が酷く滑稽に思えてきた。
「客人の身分が心苦しいならそれも有りだろう。いいじゃないか。軍も助かるし。それに身近に置いたほうが監視もできるだろう?」
王子がヒーリアにそう言って微笑んだ。目礼して引き下がるヒーリアに、何となく腹が立つのは何でだろう。
とりあえずは居場所を確保できるのだから、あえてここで混ぜ返すこともないだろう。
「すみませんが、よろしくお願いします。お世話になります」
こうして、綾はこの世界で『客人兼将軍補佐見習い』という、身分を手に入れた。
この先どうなるかなんて解らない、けれどもしばらくはこの人たちに共に行く。そこに潜む感情は今は蓋をして。