現在位置身分不確定*2
「聞かない国名だな……。ましてや世界に名前があるなどと……さてどうするかな」
あっさりとエンファルコード王子は綾の言葉を否定した。
「殿下」
「何だ」
「もしかして連れ帰るおつもりですか」
「……そのつもりだが」
「お止め下さい。何処の誰だか分からぬ者を連れ帰るなど!」
「ヒーリア。私たちは何の罪も無い女性を傷つけたんだ。心からの謝罪と手当てはするものだ。違うか?」
「ですが!」
「ヒーリア」
「…………御意」
綾の目の前で、綾の処遇が決まっていく。何にせよ、ヒーリアは猛反対で、エンファルコード王子に反論していた。
それはまぁ、得体の知れない小娘が現われて、異世界から来たとか抜かし、全く聞いたことの無い地名を言って、且つ奇妙な服装をしていたら、大事な主君に近付けたくないのは解る。こいつは頭弱い? というかイカレてる? とか思うだろう。綾だって思う。
申し訳ないが綾だって引けないのだ。此処に置いていかれると、確実に野垂れ死ぬ。放り出すなら、せめてこの世界の予備知識を付けてからにしてほしい。とにかくここで引き下がったら獣の餌だ。
「えーと、すみません。図々しくて本当に申し訳ないんですけど、せめて人のいる場所まで連れて行ってもらっていいですか。あと、この世界の基盤を教えてください。あ、あとお金貸して下さい。働いて後で必ず返しますから。そしたら後は自分で何とかします。それで、この顔の傷はチャラってことにして下さい」
エンファルコード王子は、突然べらべらと話しだした綾を驚いた目で見た後、軽く笑った後答えた。
「それだけではこちらの面目が立たない。暫らくの間の生活は心配することがないよう取り計らうよ」
会話を遮ろうとする従者の二人を制して、王子は綾にそう提案した。