現在位置身分不確定。
エンファルコード=ガーディア。
正真正銘の王子さま。嘘だ、と否定したくても、お付きの従者の様子がそれを許さない。
綾は深くため息を吐いた。
軽い自己紹介がすんだ後、制服のエンブレムを問いただされ、『高校生』の説明を求められた。
その説明をするには、まず綾の世界の定義から話さなければならないので、適当に学徒のようなものだと端折った。
そしてエンブレムは、その学校の象徴的なものとも説明したが、あまり理解は得られなかった。
とにかく今の現在地を知りたいので、綾はエンブレムの説明を強引に終わらせ、矢継ぎ早に質問を重ねた。
「ここは何処で、貴方達は何が目的で此処にいるんですか?」
「割にせっかちだな。君の世界の説明もまだなんだけど。……まぁ、いいか」
苦笑した王子さまは、そんな様すら整っている。何様だ! とばかりに綾は睨み付けた。
「この国はガーディアナ王国という。私はこの国の王子だ。この二人は私の護衛の騎士。この森には……まぁ狩りに来たってところだな。さて説明はすんだ。次は君の番だ。女性の身で馬もなしにこの森にただ一人でいる、このことがどんなに奇異に映るか理解してもらえるだろうか。君は何処から来て、なぜ此処にいる?」 最もな質問に、綾はぐっと詰まった。得体の知れない女を相手に、この王子の態度は破格の対応に違いないからだ。
「世界の名前で言うなら『地球』。国名で言うと『日本』。気が付いたら、此処にいて、物音がしたからとにかく逃げました。どうして此処にいるのか、逆に説明が欲しいくらいです」
綾はここで一息吐いて、真っすぐに王子の目を見つめて言った。
「ガーディアナ王国という地名を聞いたことなんてありません。貴方の名前も、この森も記憶にはありません」
だから、異世界トリップなんてネタみたいな状況から解放ください。何度目かの心からのお願いを込めて、綾は王子が否定しないことだけを祈った。