序章
選ぶことは許されなかった。
もとより選択権は無く、ただ受け入れることのみが許される全てだった。
存在するだけで疎まれることがあるなんて知るはずがない。
体に流れる血が憎いのだ、と思い知らされて踏み躙られるだけだった。
「はぁ……?」
確実に自分は死んだと思った。
バイトが終わり、買い物をして歩道を歩いていた綾に、猛烈なスピードでトラックが突っ込んで来たのだ。
体に激しい衝撃を受けて、意識を失いながらも、冷静に死ぬのだと思ったはずなのだが。
綾の目の前に広がるのは、死後の世界ではなく、病院でもない。道の果てが見えないだだっ広い草原だった。
ここは定番の行動に出てみることにして、綾は自分の頬を強くつねった。
「……痛い……。夢オチとか今時流行らないって。漫画じゃないんだからやめてよ。冗談キツい」
夢から覚めろと言わんばかりに、今度は自分の頭を強く叩いてみる。
加減を誤り前のめりに地面に倒れてしまい、綾はそのまま地面に埋まりたい気分で一杯になった。
変わらない現実に、綾は誰彼構わず喚きちらして八つ当たりをしたくなったが、生憎言語を話す人間は自分一人。
「本当に冗談じゃないよ……」
大草原にただ一人。
その嘆きを受けとめるのは風に揺れている木々や草花だけだった。