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第05話

 ほどなくして、私は国を離れることになった。

 精霊王様たちからも望まれたのであれば、エリックが言うように巫女としてのお役目を新しい巫女の代わりに果たすことも考えないではなかった。

 けれど、そうではなかった以上、エリックや国、神殿の思惑通りに行動しようという気にはならなかった。


 とはいえ、その行動に一切の迷いがなかったかというとそういう訳でもない。

 いくら精霊側の了承があったとはいえ、無断でこれまで続いてきた精霊の巫女の役割を排すことに後ろめたさを覚えないでもなかったから。

 ただ、その後ろめたさも国を離れて数ヶ月もすれば、綺麗さっぱりなくなっていた。

 精霊王様たちからあの国の状況を聞かされているうちに、後ろめたさを覚えることがバカバカしくなったから。


 そして、国を離れて数ヶ月経過した今、彼の国でようやく精霊の加護が失われたという事実が発覚したらしい。




 ―――




「予想以上に時間がかかりましたね。

 さすがに神事を行うタイミングになれば気づくと思っていたんですが」


「本当にね……」


 国の状況を教えてくれたライト様が悲し気な表情でうなずく。

 まあ、それも仕方ないと思う。

 ライト様は他の精霊王様たちが次々とあの国を見限っていく中、最後まで手を差し伸べようとしていたのだから。


「そういえば、まだ他国は精霊の加護が失われたことに気づいていないんですか?

 周りの国から恨まれていましたし、加護が失われたと知ればすぐにでも攻め込まれそうな気がするんですけど」


「うーん、たぶん僕たちが離れたこと自体は気づいているんじゃないかな。

 確信はないかもしれないけれど、少なくとも疑いは持っているだろうね。

 ただ、確信を持てたとしても、あの国は大国として十分過ぎる力を持っていたからね。

 その力がなくなる数年後くらいまでは、他国が手を出すことはないんじゃないかな」


 あぁ、確かに精霊の加護が失われたからといって、いきなり弱体化するわけじゃないか。

 併合したり、属国化したところから絞り取りまくっていたみたいだし。


「そうなると、他国よりも先に属国や併合された地域の人たちが反乱を起こすのかな?」


「まあ、そうなるだろうね。

 他国もそういう地域に対して裏で援助したりするんじゃない?

 僕たちとしては、争い事が広がる事態は好ましくないんだけどね」


「……なんというか、申し訳ありません」


 あまりの申し訳なさに頭を下げてしまう。

 正直、あの国に愛着なんかはないし、特に思うところはないけれど、8年間とはいえあの国で精霊の巫女を務めていた以上、無関係という訳にもいかないだろう。


「いや、ミリアリアが気にすることはないよ。

 むしろ、こんな状況になるまで放置していた僕らの方に責任があるね」


「ライト様たちは初代との約束を守っていただけですし、国が悪いだけだと思いますけど」


「それでもだよ。

 ミリアリアが巫女になる前から、それこそ数十年、数百年前から徐々にではあるけれど、あの国の腐敗は始まっていたんだ。

 だから、もっと早くにあの国との関係を見直すべきだったと、今であればそう思うよ」


 そう言い残して立ち去る、悲し気な顔をしたライト様を見送る。


 精霊王様たちの中で最後まであの国を信じていたのがライト様だ。

 新しい巫女が就任のあいさつに来なくても待つことを選び、最初の神事でお役目をこなさなかったときも初めてだからと待つことを選んだ。

 にもかかわらず、あの国の人々は効果の落ちた神事をバカにして精霊たちを罵り、あまつさえ、巫女であるクローディアでさえも精霊たちをバカにしたのだ。

 心優しいライト様にそんな言葉を聞かせたあの国が恨めしいし、そんな国にいた自分も情けなくなる。


 にしても、あの国はこれからどうなるのだろうか?

 まあ、衰退の一途をたどることは確定していると思うけれど。


「まあ、もう私には関係のない話かしらね」


 そうつぶやいて、あの国に対する思考を打ち切る。


 幼少期は生家の伯爵家で要らない子として扱われ、その後は神殿で精霊の巫女という名の道具として扱われていた。

 けれど、今の私には家族とも呼ぶべきエリーとアリーがいて、優しく見守ってくれる精霊王様や精霊たちがいる。


 であれば、ここから私の人生を始めよう。

 皆と一緒に幸せになるために。


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