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第04話

「というわけで、私は精霊の巫女を降ろされるそうですよ?」


「お前の国はバカしかいないのか?」


 巫女の家に戻り、落ち着いたところで今日の顛末を話してみた感想がこれだ。

 ちなみに、先の言葉は闇の精霊王であるダーク様の発言。


「バカというか、欲にまみれた自分勝手な人間が多いイメージですね。

 この私を影武者?というか精霊の巫女の下働きにしようという案も、こちらの実状を知らなければそれほど悪くないのでしょうし。

 何せ、神事以外の時間をほとんどこの巫女の家に引きこもっていた私は神殿内で完全に浮いた存在になっていましたから。

 そうなると、実家の伯爵家からもほぼ捨てられた状態になっている今、頼れる者がいない私は下働きみたいな扱いであっても巫女の家でお役目を果たす立場を求めると思ったんでしょう」


「愛し子のお役目や神事について正しく認識している人間はいないのですか?」


「うーーん、お役目や神事については完全に形骸化している感じですねえ。

 私が精霊の巫女になったときもただ手順を説明されただけで、それがどういった意味を持ってどういう目的でやるものなのかは説明されませんでしたし」


 光の精霊王であるライト様からも質問が飛んできたので答える。

 といっても、私も神殿の上の方どころか現場レベルのお偉いさんにすらまともに関わることがないので実状がどうなのかは不明だ。

 ただ、お役目の目的を知っているのであれば、今回の提案のようにお役目と神事を行う者を分けるような真似はしないだろうから、知らないのだと思う。


「まあいい。

 それで、お前はこれからどうするつもりなんだ?」


 再び口を開いたダーク様の言葉を今一度考えてみる。

 これからどうするつもりか。


 正直、国や実家の伯爵家、ついでに神殿に対しても特に愛着があるわけではない。

 あいにくと神事などの手続きはエリーとアリーが表に立って対応していたので、神殿内の人間でも私とかかわりがあった人はほとんどいない。

 というか、本当にエリーとアリー以外は顔を見たことがあるくらいの関係でしかない。

 元婚約者であるエリックについてはあんなだし、実家の伯爵家についても婚約関係の席で顔を合わせる程度の関係だ。

 だったら、馬車の中で話していたように自分がしたいようにすればいいのではないかと思う。

 幸いエリーとアリーは一緒に来てくれるということだし。


「出来ればここに住まわせてもらいたいと思っています。

 エリーとアリーも一緒に来たいと言っているのですが、ダメでしょうか?」


「「構わないぞ(よ)」」


 不安を抱きながら希望を述べてみると、想像以上にあっさりと許可が下りた。

 私の知る限り、精霊の巫女以外が精霊の住まう地に足を踏み入れることはないので難しいのでは?と思っていたのだが。


「でも、そうなると次の精霊の巫女の扱いはどうなるんです?

 私が別の場所に移動する感じですかね」


「うん?

 別にお前がわざわざ移動する必要などないだろう。

 そもそも次の愛し子はお役目を果たすつもりがないのだろう?

 ならば、ここまで続いたお前の国との関係も終わりにしていいのではないか?」


「えっ!?」


 あれっ?

 軽く疑問を投げかけてみたら、予想外に重い言葉が返ってきてしまったんですけど。

 というか、そんな軽い感じで今までの繋がりを絶っちゃっていいんですか?

 正確なところは知らないけれど、1000年以上続いている関係なんですよね。


「あはは、ミリアリアからするとそれなりに重大なことに感じるかもしれないけれど、僕たち精霊からすると大した話ではないんだよ。

 精霊としてはかつての愛し子との約束を違えないために関係を続けてきていたけど、かなり前からお互いの関係性は微妙な感じになっていたしね。

 だから、人間の方から今の関係性を終わらせようとするのであれば、こちらからわざわざ続けようという気にはならないんだよ。

 正直、ミリアリアの国も昔ほど居心地が良いとは言えないしね」


「えっ、うちの国って何かダメになってたんですか?」


「いや、国がダメというか、愛し子がダメというか。

 女王が愛した愛し子は、確かに精霊にとってとても心地の良い魔力を持っていたよ。

 その愛し子の子たちも、初代ほどではないまでもそれなりに心地の良い魔力だった。

 でもね、さすがに1000年以上も世代を重ねてしまうと特別に心地の良い魔力というわけではなくなってしまうんだよ」


「つまり、私の魔力も実は精霊たちにとって心地良くはなかった……?」


「あー、そういうわけではないんだけど。

 なんといえばいいんだろう。

 そうだね、ミリアリアにわかりやすいように数字で例えると、普通の人間が1とすると初代の愛し子は100くらいだったんだよ。

 で、最近の愛し子は10くらいだね。

 この10くらいというのは、探せばそれなりにいるレベルなんだよ。

 だからミリアリアの国にこだわる必要はなくなっていたんだ。

 まあ、さすがに初代から数世代くらいまでは、50を超えるような子もいたから意味がないわけじゃなかったんだけどね」


「なるほど、血が薄まりすぎたんですね」


 話を聞けば納得だ。

 言われてみれば当たり前のことなんだけど、人間だとおおよそ20年、長くても30年程度で世代が変わる。

 そのことから考えると、少なく見積もって30、多くて50くらいは世代を重ねていることになる。

 いかに初代の血がすごかろうが、それだけ薄まればどうしようもないのだろう。


「でも、そうすると国が困ることになりませんか?

 精霊の巫女が神事を行っても、土地に精霊の加護がつかなくなるわけですよね」


「別に困ることもなかろう。

 お前の国以外は精霊の加護なしでやっているのだ。

 それと同じになるだけだ」


「まあ、そうなんですけど……」


 いや、そうなんだけどね。

 たぶん、精霊の加護のある土地に胡坐をかいているあの国じゃ結構な問題になると思うよ?


「まあ、心配しなくても、別にすべての精霊があの国からいなくなるというわけではないから。

 それに神事だって、執り行いさえすれば愛し子の魔力に惹かれた子たちは協力するだろうしね。

 だからまあ、いきなり何もかもなくなるというわけではないと思うよ」


 不安が顔に出ていたのか、ライト様が補足してくれた。

 そもそも国を捨てようとしている私が心配するのもおかしいのかもしれないけど、その言葉のおかげで少し気が楽になった気がする。

 まあ、そういうことであれば、国の上層部と新しい精霊の巫女様の手腕に期待するとしよう。


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