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第01話

「皆のもの、今日は良く集まってくれた」


 王城の一室、国を挙げてのパーティーということで贅の限りを尽くし、これでもかと飾り付けたてられた舞踏会場。

 その中心に立ち、煌びやかな衣装に身を包んだ出席者たちの注目を集めながら、この国の第2王子であるエリックが口を開く。


「私と精霊の巫女であるミリアリアが婚約関係にあることは皆も承知していると思う。

 確かに王族と精霊の巫女が婚姻を結び、そのつながりを強めることは重要だ。

 だがっ!」


 エリックはそこで言葉を切り、彼から少し離れた位置に立つミリアリアへと視線を向ける。

 周囲もそれにつられ、会場の注目がミリアリアへと集まった。


「だがっ、ミリアリアは精霊の巫女であるにもかかわらず、神事に対して真摯に向き合うことなく明らかに手を抜いていると報告を受けている。

 実際に私も何度か視察に出向いたが、ミリアリアは明らかに手を抜いていた。

 かつて見た先代の神事と比較すると、神事に対する真摯さは雲泥の差だ。

 諸君、ミリアリアの怠慢をこのままにしておいていいのだろうか?

 いや、そんなわけはないっ!

 このままでは精霊に愛された我が国が精霊に見放されてしまうだろうっ!!」


 そう言い切ると、周囲へと語りかけるようにしていた視線を再びミリアリアへと向ける。

 先ほどとは違い、その瞳には強い憎しみの色が点っていた。


「よって、今日この時をもって、私はミリアリアとの婚約を破棄するっ!

 そしてミリアリアを精霊の巫女の座から排し、次の精霊の巫女にはクローディアを任命、併せて私とクローディアとの婚約を新たに結ぶことをここに宣言するっ!!」


 エリックがそう力強く宣言すると、会場は一瞬静まり返り、次の瞬間には強烈な歓声をもって彼の言葉を歓迎していた。

 歓声が落ち着くのを見計らってエリックは側へと1人の女性を招き寄せる。


「知っている者も多いだろうが、紹介しよう。

 彼女が次の精霊の巫女となるクローディアだ」


「クローディアと申します。

 精霊の巫女という国の重要な役目を任されたことに不安もありますが、精一杯務めさせていただきます。

 皆さま、よろしくお願いいたします」


 そう言って、しおらしく頭を下げるクローディア。

 だが、その直前にミリアリアへと向けた視線には明らかにあざけりの感情が込められていた。


「さて、精霊の巫女がふさわしい者に代わり、私も新たな婚約を結ぶことができた。

 そんな祝いの席に貴様のような者がいる資格などないっ!!

 衛兵っ、ミリアリアを連行しろっ!!」




 ―――




 こいつらはバカなんだろうか?

 先ほどか目の前で繰り広げられている茶番に対してそのような感想しか思い浮かばない。

 別に私とて好き好んで精霊の巫女になったわけではないのだ。

 “精霊の祝福を受ける”という精霊の巫女になる資格を持つ者の中で一番都合が良かったから精霊の巫女に選ばれたというだけで。

 それを今更ふさわしくないと言って排除しようだなんて、ずいぶんと勝手なことだと思う。

 まあ、この国の上層部や神殿の上層部にはそういう奴らしかいないというのは今更な話だけれど。


「さあ来いっ」


 醒めた目で周囲を見ながらそんなことを考えていると、いつの間にかそばに来ていた衛兵によって腕を取られた。

 掴まれた箇所に手の跡がつくのではないかという乱暴さは、明らかに年若い娘に対する扱いではない。

 周囲を囲むこの衛兵たちもエリックの言葉を疑っていないのか、あるいはすでに根回しが済んでいるのか。

 まあ、どちらでも構わないか。

 これ以上扱いが酷くならないようにおとなしく連行されることにしよう。

 さっさと自室に帰りたいところではあるけれど、一応、ことの顛末くらいは確認しておきたい。


「はぁ」


 けれど、そんな決意とは裏腹に、これからの面倒ごとを思うとため息をついてしまうことを我慢できなかった。


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