猛毒耐性は、お弁当で上げろ!
「さて、今日もいただきます……と」
誰もいない密林の奥。僕は自作のお弁当を前に両手を合わせた。
「あれからもう3ヶ月……これが最後のお弁当って思うと感慨深いな」
そう。僕達は3ヶ月前、異世界の神様の手によってクラスごと転移させられた。そんな僕達に、神様は気前よくチートスキルを配り、順番の最後になった僕に与えられたのは猛毒耐性LV1のみだった。
いくらなんでもそれはひどいと抗議した結果――僕は密林に飛ばされ、突然、目の前に現れた毒々しいドラゴンに飲み込まれた。
今は巨大な骨の残骸と化したそのなれの果てを見上げる。
「こいつに飲み込まれたおかげで猛毒耐性は一気に上がったし、案外内臓がもろくて簡単に倒せたし、まあ、今思えばこれが神の采配って奴なのかな」
てっきり、最初は神様の不興を買ったせいで罰を受けたのかと思った。でも、以外と毒に耐えられるわ、初期装備らしき手持ちのナイフで内臓をさくさく解体出来るわで、あっさりと倒せてしまった。
だけど、僕はすぐにみんなと合流することをしなかった。このままでは足手纏いになる事が分かっていたからだ。
だから、この3ヶ月間、倒したドラゴンをお弁当にして、この密林で自分を鍛えていたのだ。
「猛毒耐性MAX、猛毒津波、猛毒液操作……えーっと他には基礎レベル79/99か。いい感じだ」
この毒竜? を倒したおかげで基礎レベルは格段に上昇し、この密林に出没する他の魔物もナイフ1本で渡り合えるくらいになった。やたら毒を多用してくるのが厄介だけど、そんなモノ、毎日自作のお弁当を食べて猛毒耐性MAXになった僕には関係ない。
――とはいえ、
「こんなんじゃまだまだだ。クラスの奴らはきっと凄いことになってる。僕は僕でこの世界でも生きていく力をつけないと!」
みんなと再会したとき、役立たずで追放されるとかは御免だ。みんなは、きっとこの世界で英雄のような扱いを受けているだろう。
もっとだ。もっと強くならなくちゃ。
骨の残骸に向かって気合いを入れ直していると、いつの間に現れたのか、そこにはお色気たっぷりの女性が佇んでいた。
「ふうん。あなたが四天王の一角にして密林の長、黒死竜タラスクを倒したって子? 道理で……魔王様が警戒なさるわけね」
え? 四天王に密林の長? 魔王様が警戒? てか、アナタダレ?
「私と一緒に来てくれないかしら? 悪いようにはしないわ」
密林の奥、僕は人生最大の岐路に立たされたのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
以下、なろラジ投稿時に送った内容です。 ご興味があればご覧下さい。
毒小麦のパン、猛毒ガエルの肝、幻覚キノコのソテー猛毒パプリカを添えて、タラスクの毒腺の塩から、毒菜のおひたし。デザートは黒死竜の毒液プリン。
自分で作ったとはいえ、食べれば死ぬ一歩手前まで身体を蝕む毒の塊を前に、主人公は今日も盛大なため息をついた。
――僕にも、もっとこう派手なスキルとか貰って、かっこよく戦う世界線があったはずなんだよな、きっと……
事の始まりは3ヶ月前。主人公のクラスが異世界に転移したことから始まった。ご多分に漏れず、異世界の神に次々とチートスキルを貰っていくクラスメイト達。それを横目に見ながら、最後に残った主人公が与えられたものは、余り物の猛毒耐性LV1のみだった。
「3ヶ月かけて猛毒耐性も大分上がった。ドラゴンっぽいやつの毒も平気にはなったけど、こんなんじゃまだまだだ。クラスの奴らはもっと凄いことになってる。僕は僕でこの世界でも生きていく力をつけないと!」
彼は気付いていなかった。既に、都市1つを滅ぼせるほどの猛毒に耐え、さらにはその力を自由に扱う猛毒のドラゴンとして名高いタラスクをその口に入れていることを。