2.
そんな毎日を送っていたある日のことだった。
いつものように日課であるインターネットのサーフィングをしていた時のことだ。
ネット掲示板の投稿にこんな書き込みがあるのを見つけた。
「協力依頼
〇月×日木曜日の午後3時 駅前公園に だれでもいいので来てくれませんか ちょっと協力していただきたいことがあります。
黒のパーカーにジーンズで身長150㎝くらいの女です。 来てくれましたら→のメールアドレスに連絡をください。***××@==」
はたから見ると明らかに怪しいのだが、その時のハルは学校も半分ドロップアウト
してやけっぱちになっていた頃だったので、興味本位で行ってみることにした。
時間が昼の3時だったし、周りに人も大勢いる。それに相手が女(一応そう書いてある)
ということもあり襲われることもないだろうと思ったのである。
場所はハルの自宅の最寄駅から3駅の下町である。駅の前は少し古びた商店街があり、高齢者が多く住む街といった感じである。
平日で人通りはまばらだが駅前には交番もあるので多少は安心できる。
ハルにとっては暇を持て余していたここ最近の一番の行動だった。
当日、恐る恐るその場所に行ってみると、それらしき人間はどこにもいない。
掲示板に書いてあったアドレスにメールを入れてみた。
[×〇掲示板をみてきました。協力依頼の件。来ています?] とメールを打つとすぐに返事がきた。
[あなたの服装はどんなですか?] [ベンチのとこまで来れますか?]
ハルは待ち合わせでよく使われている木製の古びたベンチのところまできて、左右を見渡した。
近くに交番もある。犯罪に巻き込まれることはとりあえずはないだろう。
[キャップをかぶっています。白のパーカーです]とメールを打つ。
しばらくベンチの前をきょろきょろしていたが、150㎝くらいの小柄な女がこちらに近づいてきたので
ああ、この人か。と見るとなんとなく懐かしいような面影が目に入ってきた。
「あ・・・・」その女はそう言って自分を見た。
「・・・ななみじゃん。」 そう、知り合いだったのである。
「なんでななみがきてるの?」
「いや、私がその依頼者だから・・・」
「そっか・・奇遇だね。」
「うん・・まあ・・」
そんな会話が繰り返される。 ななみとは小学校、中学校の同級生である。
大の親友だったというわけではないけど何度かお互いの家に行ってゲームをしたり学校では
ほかのみんなと一緒に遊んだりはしていた。 中学の2年の夏くらいだっただろうか、別のクラスだった
ななみはいじめか何かで不登校になったということを噂で耳にしていた。
それから高校受験の時期となり自分の進路に向かってあくせくとしていく中でななみのことは
いつもまにか頭の中から消えていた。 薄情かもしれないがその程度の仲だったのである。
そもそも、ななみは学校ではちょっと孤立しているタイプのやつだった。
いじめとはちょっと違うけど陰口とか冷やかしとかは普通にあった。
なぜかというに、ななみは癇癪持ちなのだ。
なにかのきっかけでスイッチが入るともう手が付けられなくなる。
小学校の時はこんなことがあった。
鬼ごっこをしているときだったかと思う、友達同士の悪ふざけでななみばかりを狙って鬼にしていたのだが
その時に癇癪が爆発してしまった。教室の机やいすを持ち上げては誰彼構わず投げつけ大声を上げる。
その様子を見て皆がおびえながらドン引きするという感じだ。
こんなことはだいたい月1くらいで繰り返されていたので、クラスのみんなからななみは危ない奴だという共通認識を持たれていた。
みんなから一歩引かれた位置で相手にされるものだから自然といじめに近い態度が醸成されてくる。
個人的にはちらほら遊んだりはするのだが、ななみにとってはあまり楽しくない小学校生活だったのではないだろうか。
そんなななみだが今はどうしているのか全然知らなかった。
「今はどうしてんの?学校は?」
「行ってない。」
(まああそうだろうな。)と心の中でつぶやく。平日の昼間から赤の他人と会おうとしているやつである、普通の学校生活をしているという気はしない。
「ハルもそんな感じだね?」
「うん、そうなんだ。」
二人並んで川沿いの道を歩いていく。
「ちょっと待って。」
自販機があったのでなんとなくペットボトルのお茶を購入した。
久しぶりに会って何を話すというわけでもないものだから、少し気恥ずかしかったのである。
川沿いの葉桜の並木道を歩きながら、とりとめのない話をする。が、本題であるななみの目的に関する話が気になっていた。
古びたゲームセンターの横を過ぎたくらいだったか、人通りもまばらになってきたところでようやくその本題に関して質問を仕掛けることにした。
「で、今日の目的はなんなん?」
「そう、それね。・・まあ、本当は知り合いに頼むつもりはないから掲示板使ったんだけど。ま、ハルなら大丈夫か。」
「どゆこと?」
知り合いに頼みたくない要件とはなんだろうか?
「あそこ知ってる?昔よく休みの日とかにみんなで遊びに行った池のとこ」
「ああ、掘っ立て小屋みたいなのがあっていろいろ集めておいてたりしたよね。」
小学校時代にみんなで遊んだ、いわゆる秘密基地みたいな場所だった。
「ちょっとそこに行くんだけどいい?」
「いいけど・・・」
その場所は小学校の登下校に使う農道を外れた茂みのような場所に位置している。何年も行っていないが農業用水のため池のようなものだったと思う。
特に管理がされているというわけではなさそうだった。
茂みの中をちょっと行くとその小屋についた。前より少し古びてはいるが懐かしい外観が目に入ってきた。
「うっわ、久しぶりだねー」こんな当たり前のことを言いながら手にしたペットボトルのお茶を一飲みする。
と、ここでななみが何かためらうように足を止めた。
「どした?」
「うん、あそこの小屋にね。ちょっと問題のあるものがあって・・・」
「問題って?」
「とりあえず見ればわかるんだけど・・・あんまし、オーバーなリアクションしないでほしいってゆうか・・・」
(・・・?)ななみの意図を汲みかねたので再度尋ねる?
「うーん、そんなヤバいもの?」
「完全にヤバいね。」
ななみが真顔でボソッとそうつぶやいた。
「・・・わかった。じゃあちょっと見たらすぐここに戻ってこようか。」
「ハルなら大丈夫だと思うけど・・」
ななみは小屋の扉をゆっくりと開けた・・・