ちょいと引っ掛ける猫パンチ
男子高で、女の子と付き合った事の無い樹君と、共学高で付き合っている男子が居た愛莉ちゃんのムズキュン話です。(R15は保険)
「いーなー美味しそうだなぁ~」
オムライスを掬う手を止めてこちらを見ていた愛莉はいきなりこんな事を言う。
「えっ?! ええ??」
戸惑うオレの顔を見て、愛莉は手にスプーンを持ったままクツクツと笑う。
「これだからイケメンくんはねー!」
「何だよ、それ!」
「だって、今、私が見つめていたのは“自分”の顔だって当然の事の様に思ってたでしょ?」
「そんな事ねーよ!」
言い返しはしたが、『愛莉がオレを見つめてくれている』って思いこんで悪い気がしなかったのは事実だ。
オレの顔……自分で言うのもなんだけど、まあ、イケてるほうだとは思う。
でも男子高だったオレには“その恩恵”は無く、大学生になって初めて付き合った女の子が愛莉だ。
クルクル動く大きな目が愛らしい愛莉をオレはいつも目で追っていて……悔しいけどオレの方がカノジョにぞっこんなのだ!
だから“当然”なんて思っちゃいない!
愛莉が見つめていたのがオレじゃなく、オレが食べているローストビーフ丼だった事に心の中で深くため息を付く始末だ!
そんなオレの気持ちを知ってか知らずか、愛莉はオムライスのカケラが乗っかっているスプーンをオレの鼻先に突き付けた。
「ハイ!あ~ん!!」
いやいやここは学食だぞ! 周りに人いるし……
たじろぐオレに愛莉の大きな目がジトっと睨む。
「樹って!私と付き合ってくれてるんだよね」
「そ、そうだよ……」
「イケメンくんは自分の気が向かなきゃ“間接キス”もしてくれないのね! やっぱりこの間のキスも遊びだったんだ!!」
「人聞きも悪い事言うなよ!」
「ほらっ! きっと今、このカフェテリアの中にも樹が引っ掛けた女が居るんだ! だから都合が悪いんだ!!」
「居ないって!! だいだい、オレ! 愛莉以外の女の子と付き合った事ないから!!」
「私が『イケメンは嘘つきの始まり』って諺を知らないとでも思ってるの?!」
「噓じゃねえよ! 言っただろ?! オレ、男子高出身だって! 大体そんな諺ねえし!」
「ええええ???!! それじゃ樹ってBLだったの?? お尻愛の男の子が居たの??!!! やっぱり私の事はカモフラージュだったのね!!」
「何でそんな話になんの?! いー加減にしろよ!」
「だって、樹がオトコらしくしないんだもん!」
「じゃあ!どうすればいいの??!!」
「こんなの、あっさり、パクン!と食べちゃえばいいのよ!」
オレはほんの少しむくれながらスプーンの上のオムライスにパクついた。
バターの甘い香りとケチャップの風味が口の中に広がる。
「フフフ! 食べたわね! じゃあこのお返しは?」
ゲッ?!!
ひょっとしてオレも愛莉に『あ~ん』するのか??
恥ず過ぎるだろ!!それ!!
ドギマギするオレに、愛莉は悟った様な表情を作りスプーンを立てる。
「いいのよいいのよ 樹はやってくれなくても! 樹にそんな事させたら私が周りのコ達から目で射殺されちゃうから!! 仕方ないから自分の事は自分でしますわよ!」
言うが早いか、手に持ったスプーンでオレのローストビーフ丼を……肉の上に半熟卵とカイワレ大根が乗っかっている一番美味しいところをガサっと攫って行った。
「ああああ!」
思わず叫んでしまったオレに、攫ったローストビーフでほっぺをパンパンにした愛莉は大ウケしている。
「イケメンはこんな事ぐらいで動揺しちゃダメなの!」
人差し指を押し当ててオレの口を塞ぐ愛莉の目がキラキラと光を放って、色んな言葉がオレの頭の中でピンボールを始める。
「ねえ!知ってた?」
頭の中を“アウトホール”された言葉がオレの口から漏れ出る。
「な、何を……?」
愛莉の指がツツツとオレの唇を伝って口角の辺りを掬い取り、ケチャップで赤く染まる。
その指先をローズピンクのくちびるで啄んだ愛莉はオレにとどめのひと言を囁いた。
「肉食系の私の“オードブル”はこれなの」
絡められた指から伝わるお互いの鼓動が、その先のアドベンチャーを目指し早鐘を打つ様にシンクロして行った。
。。。。。。
イラストです。
愛莉ちゃん
樹くん
このお話の主人公、樹くんが出て来るお話を来週の予約投稿で再掲出する予定です。
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