表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第四人

俺は朝霧(ひゅう)。ヒツジとヤギを探せる“牧羊犬(シープドッグ)”の使い手だ。

MPを使用しないものの、代償としてヒツジとヤギに気付かれる。

魔法を使えない典型的な戦士タイプで、武器は斧だ。

HP 25 / MP 0


藤原樹絵璃(じゅえり)は小銭をピカピカにする“資金洗浄(マネーロンダリング)”の使い手だ。

MPの半分を使用するので探索がきつくなる。レモン汁で代用可能。

ファイアボールという炎属性の魔法を使えて、一応ナイフを持ってる。

HP 10 / MP 10


高橋水人(うぉると)はお札をシャキッとさせる“資金洗浄(マネーロンダリング)”の使い手だ。

MP全消費だがこいつの場合モンスター食って回復するからそこまできつくない。

アイスジャベリンという氷属性の魔法を使えて、一応ナイフを持ってる。

HP 5 / MP 25


俺たちは揃いも揃って特殊能力(スキル)に恵まれなかった。


聞いたところによると他の探索者たちは

自己強化とか敵を眠らせる能力、雑魚から宝箱確定などの

探索が楽になる便利スキルを所持してるらしい。羨ましい。


まあ、俺たちは俺たちだ。

俺たちなりのやり方で戦えばいい。


今日の目的はボスを倒す事だ。

ボスの宝箱にはステータスを上げるアイテムがあるらしい。

俺はともかく、魔法使いの2人が強くなるにはそれを使うしかないようだ。


*


東O-A-013。俺が探索者デビューしたダンジョンだ。

目標はボスのゴブリンロード。ボスの中ではやりやすい部類らしい。

魔法を使わず大斧を振り回す完全脳筋タイプ…俺と同じだな。


そんでもって、例によってまた謎の新人を押しつけられてたりする。

どうせまたハズレスキルの持ち主なんだろうなぁ、とか考えてると

棍棒と盾を持った女の子が話しかけてきた。


「おっすおっすー あたし松嶋(しゃいん)

 あんたがヤギの朝霧?よろしくっすー」


ギャルかぁ……。なんか苦手だ。

でも男女比のバランスが取れた。


「よろしく …松嶋さんはどんなスキルを持ってるの?」


「んー?いやどうせ使わんし知らなくていーよ」


なんか話したくないようだ。

無理強いする気はないし、いいか。


*


入場上限の4人でダンジョンだ。

本格的にRPGしてるって感じがする。

一列に並んで歩いてみたくなる。


「そういや松嶋さんのHPとMPっていくつ?

 あと魔法は使えるのかな?」


「えむぴー?」


ああ、わかってない顔だ。

先輩として教えてあげなくちゃな。


…ステータス画面の見方を教えてる時、

松嶋さんの能力名が見えてしまった。



『 シャイン

  HP 20

  MP 15


  消滅


  魔法 ヒール 』



……え、この子すごくね?

基本ステータス高いみたいだし、

ヒールは普通に考えて回復魔法だし、

消滅…って強スキルの匂いしかしない。


「うあぁ、見んな!忘れろ!」


松嶋さんは慌てている。

俺らのスキルよりよっぽど使えそうな感じがするんだけどなぁ。


「なんか問題あるの?そのスキル…」


つい質問してしまった。

答えたくないようだけど、気になるんだよな…。


「あ〜……なんつーか……

 そのスキル?とかっての使うと

 どんな敵でも倒せるらしーんだけどさ、

 なーんも落とさなくなるんよ 宝箱とか」


「どんな敵でも……?

 もしかしてボスにも効いたりする?」


「さー?多分そじゃね?」


「…最高じゃん!

 もしピンチになっても即死スキルで

 強制的に戦闘終了できるってことだよね!?

 安全に仕切り直せるじゃないか!」


「いやゼッテー使わねー

 代償がきつすぎんだよ」


どうやら事情があるようだ。


*


ゴブリン発見。


ゆっくり近づいて……


…まっすぐ振り下ろす!



なんか俺、こいつばっか狩ってるなぁ。

まだ4回目の探索だけど随分と手慣れた気がする。


「ギャアアアァァ!!」


おっと、松嶋さんの悲鳴だ。

彼女のほうに目をやると案の定、

怯えた表情でこちらを見ている。


「…あんた何やってんの!?正気!?

 頭かち割るとか意味が……ああ、ヤバい吐きそう」


これだよこれ!この反応!

まともな感性の子でよかった。


「アハハ!大丈夫だよ松嶋さん!慣れるから!

 よく見て!スイカ割りみたい!アハハハ!」


まともじゃない高橋が追い討ちをかける。

松嶋さんは吐いた。


*


道中の雑魚を全滅させてボス部屋の前にいる。


松嶋さんに確認したところ、ヒールの仕様は

思ってた通り仲間1人を回復させるという

パーティープレイに欠かせない支援魔法だった。

特殊能力が使えなくても普通に有能だと思う。


戦僧魔魔でバランスは悪くないはずだ。

管理センターで得た情報によると、初期ステでも

とりあえず4人いれば充分に勝機があるとのことだ。


「アハハ!とうとう来たね〜!

 ワクワクしちゃうよ!」


「吐きすぎてダリぃ…

 チャチャっと終わらせろよなー」


「朝霧君、準備はいい?」


「ああ、みんな……行こう!」


*


重い扉を開け全員が中に入ると、扉は自動的に閉まった。

再度開けられるか試したが、4人の力でもびくともしない。

どうやら侵入者を逃がす気はないらしい。

ここから出る方法はボスを倒すか、俺たちが倒されるかのどちらかだ。


部屋の中央には大きな魔法陣があり、

その中に誰かが足を踏み入れるとボスが出現するそうだ。


「あっ…」


事前に打ち合わせた陣形を整える前に藤原さんが魔法陣を踏んだ。

前回がまともだったから油断してたけど、この子はアホだと思い出した。


魔法陣が光り出し、その中心からボスが迫り上がってくる。

ゴブリンロードの登場だ。今は頭頂部だけ見えている。


…作戦変更だ。


「みんな!全身が登場する前に袋叩きにしよう!

 倒し切れなくてもいい!今のうちにダメージを稼ぐんだ!」


仲間たちは指示をすぐに聞き入れ、それぞれの武器で攻撃し始めた。


  ヒュウは斧を振り下ろした!

  ジュエリはナイフを突き刺した!

  ウォルトはナイフで斬りかかった!

  シャインは棍棒を叩きつけた!


※ ※※ ※ ※


さすがはボスだ。今までの雑魚と違って一撃では倒せない。

どれだけダメージを与えてるのかわからないけど、

とにかく今は攻撃のターンだ。この機を無駄にはできない。


※ ※※ ※ ※


※ ※※ ※ ※


※ ※※ ※ ※


何度目かの攻撃でゴブリンロードの頭頂部に亀裂が入ったものの、

既に膝のあたりまで出現していて斧が届かない高さになった。

全長3メートル以上は確実にある。もうすぐ全身が登場してしまう。


「…藤原さんと高橋は下がって魔法の準備!

 松嶋さんはいつでも回復できるように待機!」


3人を打ち合わせた配置に移動させつつ、

俺は少しでもダメージを与えようと攻撃を続けた。


*


とうとう全身を曝け出したゴブリンロードは一瞬前屈みになったかと思いきや、

上半身を仰け反らせながら肉食獣のような咆哮を轟かせた。

これがこのボスの初回行動なのだろう。


俺はもう一撃だけ与えてから斧を手放し、松嶋さんから借りた盾を構えた。

ここからは俺が文字通りの盾役で、魔法使い2人がアタッカーになる。

それで倒し切れなきゃ後は俺がやる。そういう流れだ。


  ゴブリンロードは大斧を振り回した!


※※※※


……!


その巨体から繰り出される攻撃はズシリと重く、

盾がなければ一発でやられていただろうと予想できた。


「ファイアボール!」

「アイスジャベリン!」


※ ※※


2人の魔法が直撃する。

特に高橋のアイスジャベリンが体を貫通していい感じだ。


それにしてもこいつ全然痛がらないな。

頭の亀裂も気にしてないみたいだ。

刺し傷から大量に出血してるけどそれも……ん、刺し傷?


*


「ファイアボール!」



藤原さんが3発目を撃ち切った。

もう魔法は使えないが、彼女にはあと一つ仕事がある。

俺はロードの攻撃を防御しながら叫んだ。


「藤原さん、ナイフを貸してくれ!」


その指示に彼女は一瞬困惑したがすぐに切り替え、

俺の足元目がけてナイフを滑らせてくれた。


俺はロードの攻撃を回避しつつナイフを拾い、逆手に持った。


  ヒュウはナイフを突き刺した!


※※


…やっぱりそうか!こいつ、突属性に弱いんだ!

どう見ても俺より非力な藤原さんの攻撃が効いてたわけだ。

斬属性、打属性には耐性があるんだ。まるでゲームみたいだ。


  ゴブリンロードは大斧を振り回した!


※※※※ ※※※


その発見に喜んだのも束の間、

ロードの攻撃によって盾が破壊された。


レンタル品だからガタが来ていたのか、

ロードが強すぎるのかはわからないが、

とにかく俺は吹き飛ばされてピンチだ。


「ヒール!」


++++++++++


松嶋さんの回復魔法が飛んできた。

体の芯からじんわりと温かくなって気持ちいい。

…というか、今のは使うタイミングだったのだろうか?

実はあんまり痛くない。重い衝撃は伝わってきたんだが…。


「あっぶねー……

 緑のバー、残りギリギリだったぜ…

 あたしに感謝しろよな、朝霧!」


え、HPバー?そんなの見えてんの?

また俺の知らない情報が出てきやがった…。

とりあえず親指を立てて感謝は伝えた。


*


もう盾はない。さっき手放した愛斧を拾い、

かろうじてそれで攻撃を防いではいるけど

いつまで耐えられるかわからない。


「アイスジャベリン!」


※※


高橋はもう30発以上も撃ち込んでる。

素のMPならとっくに尽きてるはずだが

どこかで焼きキノコを仕入れてきたらしく、

それを食いながら戦っている。

変な奴だけど今は頼りになる。


「高橋!あいつの右手を狙えるか!?」


「やってみるよ!…アイスジャベリン!」


※※


…よし!中指を落とした!


「アイスジャベリン!」


※※


小指!


  ゴブリンロードは大斧を振り回した!


※※


握力が弱まったおかげでさっきより全然軽い。

これなら防ぎきれる!


「アイスジャベリン!」


※※


薬指も逝った!あとは人差し指だ!


「ごめん!もうキノコないや!アハハ!」


高橋ィーーー!!


*


2人が倒しきれなかったら俺がなんとかする。

最初の作戦通りだ。ロードの攻撃力は弱まった。

回復役のMPはまだある。俺にはナイフと斧がある。

戦士としてやるべきことは前に出て戦うことだ。


  ゴブリンロードは大斧を振り回した!


※※※


「ヒール!」


++++++++++


…当たっても痛くない。さっき学習した。

アドレナリンの分泌がどうとかじゃない、

これは…いや、()()()ゲームなんだ。


みんなには後で教えるとして、今は目の前のボスキャラに集中しよう。

俺はあえて攻撃を喰らいつつ、ロードの手にしがみついた。

そして、残った人差し指を狙って何度もナイフを突き刺した。


※※ ※※ ※※ ※※


ロードは右手の指を4本失い、とうとう武器を地面に落とした。

俺はすかさず大斧を拾い、奴のスネに向かって振り抜いた。

大昔から漫画とかでよくある、巨人殺しの方法を実践するつもりだ。


※※※ ※※※ ※※※


ロードは右足を斬り落とされ、体勢を維持できなくなって倒れ込んだ。

俺、今すっごく主人公してる。誰か撮影しててくんないかなぁ…。


それはそれとして、ゴブリンロードの頭頂部がガラ空きだ。

ここで決めなきゃ主人公じゃない。 やるぜ俺は……


ゆっくり近づいて……


…まっすぐに振り下ろす!


※※※※※※※※※※




*


……俺たちはゴブリンロードを倒した!


噴水のような返り血を浴びて全身真っ赤だけど、

床は奴の頭の中身でドロドロだけど、俺たちは歓喜していた。


これで確定ドロップのステアップアイテムが手に入る。

俺たちは座り込み、魔法陣の中心に注目して待機した。


……。


……。


…?


あれ、出てこない?


全員で顔を見合わせていると、再び魔法陣が光り出した。


「えっ…!?私じゃないよ!?」


藤原さんが慌てて訴えかける。

確かに彼女のせいでも、誰のせいでもないと思う。

何かがおかしい。ボスを倒したのは初めてだけど、それはわかる。

これは不具合発生中かな…?と、ゲーマーの勘が告げた。


*


魔法陣の中心からはロードとは別物の頭が迫り上がろうとしていた。

それには動物の角のようなものが生えていた。それはまるで……


「“牧羊犬(シープドッグ)”!」


仲間たちは突然の俺の行動を不思議がった。

でも今這い出てこようとしているモノの姿を見て納得した。



ヤギが近くにいる。



そしてそれはただのヤギじゃない。

……バフォメット。山羊頭の悪魔だ。

ゲーマーの勘が告げる。こいつはロードよりヤバい。

今の俺たちじゃ確実に太刀打ちできない。


全滅したら入口に帰されるだけだとしても、

仲間と力を合わせてもぎ取った勝利の証(おたから)を諦めるのは癪に触る。

なんとか乗り切る方法はないだろうか……。


「……しゃーねーなー」


松嶋さんが頭を掻きながら立ち上がった。

そしておもむろに服を脱ぎ始めた。


「えっ!?松嶋さん何やってんの!?」


「うるせ!こっち見んな!」


見たいけど、すごい剣幕だったのでやめといた。

藤原さんが壁を作って彼女をサポートしてるし…。


迫り上がるバフォメットに不安を感じながらも、

松嶋さんがどうにかしてくれるという安心感もあった。

きっとあのスキルを使うのだろう。




「“消滅”!」




「…えっ 松嶋さん、ルビは!?」


「るびー?なんのこっちゃ…

 ……つーかこっち見んじゃねー!!」


ああ、やっぱりそうか…。松嶋さんは全裸だ。

強力なスキルだけど、代償として服も消えるみたいだ。

だから、あらかじめ脱いでおいたんだろうなぁ。


…ってことは、常に裸ならスキル使い放題じゃね?


「そのスキル、最高じゃん!」


「うるせ!お前も消すぞ!」



*



管理センターへやってきた。

ロードを倒した直後に現れたのは、読み通りバフォメットらしい。

上級者でもちゃんと対策しないと瞬殺される強ボスとのことだ。

不具合ではなく、ごく低確率で起こる現象だそうだ。

そういう情報は先に知りたかったよ…。


ちなみに戦利品のステアップアイテムはMP強化が1つだけだった。

俺には関係ないから3人で話し合って決めてもらうことにした。

俺は記念にゴブリンロードの大斧を持ち帰りたかったけど、

ダンジョンのリセットと同時に消えてしまった。


*


帰宅後、すぐにシャワーを浴びて夕食を済ませた。

朝に飲む牛乳が切れてたので、俺は買い物に出掛けた。


*


夜の公園。コンビニへ行くルートからは外れるけど

少し一人になって今日の勝利を噛み締めたかった。



やっぱり俺だけじゃ勝てない相手だったよな。

仲間と一緒だったから勝てたんだ。


藤原さんのナイフがヒントになって弱点わかったし、

あの子は焼きキノコ製造機になれる。


高橋は普通に攻撃役として有能だと思った。

脳味噌ぶち撒ける度に笑うのは気持ち悪いけど。


松嶋さんはいい体をしている。

あとヒールが気持ちよかった。



俺は探索者の仕事にちょっと興味があっただけの男子高校生だ。

世界を救うとか、誰かの復讐とか、ドラマティックな理由はない。

何度か試してみて、合わなかったらやめようと考えていた。


今はこの仕事をもう少し続けてみようかなと思っている。

他の同い年の子たちは部活とかバイトで忙しいんだろうけど、

こんな青春を送るのも悪くないと感じ始めている。


今日のパーティープレイは楽しかった。

ゲームやってるみたいで楽しいって本当だったんだな。

まさか本当にゲームみたいなシステムだとは思ってなかったけど…。


とりあえず来週もあいつらと一緒に行く約束したし、

それまでに返り血対策でレインコート買っておこう。

初心者にはちょっと厳しい場所だって聞いてるから

今まで以上に気を引き締めていかないとな。


俺たちに当たりスキルはない。

でも一緒にいると楽しい。次も頑張ろう。

朝霧 風   : 牧羊犬

藤原 樹絵璃 : 資金洗浄 ファイアボール

高橋 水人  : 資金洗浄 アイスジャベリン

松嶋 光   : 消滅   ヒール

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ