蛇足
十万字のための蛇足
「使徒の覚醒が歴代最短日数を更新、か。はぁ、それにしても神様ランキング上がりすぎだし。大神たちはそれほどあいつに期待してる? ってことかし。まだ目立たせたくなかったのに」
何もない真っ白い空間には椅子だけがあり、そこには女神が座っていた。
ため息をつきながらジンとその親との会話を聞いていると。筋肉が大きい他の者がその空間にやってきた。
「盗み聞きとは感心せんな。ギャルの女神」
「筋肉の神、何の用?」
ギャルの神は心底嫌そうに筋肉の神と呼ばれた男を見る。
「ルーキーがずいぶん神様ランキングを上げたからな、そのお祝いに来たのだ」
「……嘘だし、あんたがそんな事考えるはずないし、本当の事言ったら?」
「がっはっはっは、我の事をよくわかっているではないか!」
豪快に笑うとにこやかな笑顔が消える。
「……あのルーキー、神になった時から力があふれ出していた、異常という他にない。それに神々の結界が破られた。他の神は結界を張った神の不手際だと言っていたが我は見たぞ、ルーキーの手が黒いモヤに覆われていたのを。あれはまさしく邪神側の力、破壊神が使う黒拳に見えたが?」
お互いに黙る、腹の内を探るような沈黙が覆う。が、女神が口を開いた。
「……そう、気が付いたし。…………で? 何? 邪神として完全に目覚める前に始末しようとかそういう話し?」
足を組み換え、ほおづえをつきながらも、ふてぶしく言い切る。
「がっはっはっは! そんな話しをするわけがないだろう! 我は早くルーキーと戦ってみたい! 強きものは大歓迎、ただそれだけだ! お前のことだ、破壊神を良き神にでもしようとしているのだろう? 初の試みだな!」
「そうね、あーしはなんだかんだあいつにかなり期待してるのかもしれないし」
「ルーキーであの力だ。失敗したときは……」
「ええ、新しい邪神の討伐にかつてない損害がでるでしょうね」
「わかっているならいいのだ、……でだ! 我も協力しようと思ってな、ルーキーが町を作ったのだろう? そこに我のダンジョンを作って特訓させるのはどうだろうか! 我の専門はダンジョン作成だからな、ギャルの女神が作るよりいいのが出来ると思うがどうだ?」
「なるほどね、あーしとしては早く残り二人の使徒に覚醒してもらいたい、じゃないとこれからの大神様ゲームに耐えられない。……ダンジョンは筋肉の神にまかせるし」
「よしまかされた!」
「てかなんであいつが町を作ってることとか知ってるし?」
「ギャルの女神が思っているよりもルーキーは注目されているということだ」
「そう、注目されてるなら」
ギャルの女神は真っ白い空間にジンとその仲間たちの今ある光景を映した。
そこには仲良く話をしている四人がいる。
「この中に一人仲間はずれがいるな?」
「? 誰ですか? ああ、戦っていないあなたですね? 自分から名乗り出るとは殊勝な心がけです、さあ肩をもむ権利を与えてあげましょう。命がけで戦った私たちをもっと労うべきですもんね? というより私たちのおこづかいをもっと増やしてもいいのでは? この町には興味を引くものが多いですからね、特にお酒! いくら飲んでも飲み足りませんよ! はやくあの戦いの報酬を下さい! いえ! よこしなさい愚民!」
「「…………」」
「いやお前だよ! この負け犬が! そもそもお前が自信満々に一回戦で出て行って負けなかったら二回で勝てたじゃねーか! なんだよあの負け方は! 瞬殺だったぞ! いつもいつも足ばっかり引っ張りやがって!」
「…………なんですかその言い方は! それがあなたのために命がけで戦った仲間に言う態度ですか! ああ痛い! 仲間のために身を挺して犠牲にした首が! ああ!」
「そもそも思い返してみたらさ、お前だけ感動の仲間想いの言葉言う時さ、カジノの話ししかしてなくなかった? ネッコはもちろんフェアも痛い思いして泣きながらも戦ってくれたのに、お前だけいつも通り瞬殺されて気持ちよくなってなかった? なぁ」
「………………気のせいでは? その、頑張ったおこづかいが、ほしいのですが……もうお金が」
「ねぇねぇおにい、焼き芋買ってきていい? おじさんが回ってくる時間なんだ」
「ん? いいけど、おこづかいいるか?」
「いらないよ! 毎月いっぱい貰ってるから十分だもん、行ってきます!」
「…………こらネッコ! 覚醒してから力が制御できないんだからドアを閉めるときは気をつけろって言ったろ! いいかげんぶっ壊すの止めてくれ!」
「……あの、私にはおこづかいいるか? って聞かないんですか?」
「キュラ、あきらめた方がいいの、さすがに分が悪いの」
そんな光景を見たギャルの女神と筋肉の神は顔を見合わせた。
「このルーキーは本当に神なのか疑わしくなるな、まるで神扱いされていない。こんな光景をみたからこそ他の神たちも警戒を解くのだろうな。こいつがあの黒拳を使ったとはおもうまい」
「そうね、でもそんな視点から見れるからこそあーしはあいつに期待してるし。あいつの使徒にも期待してる。ねぇ、使徒が覚醒したらあいつにどの大神のゲームに参加させるべきだと思う?」
「……戦い系統の神に向いていると思っていたが、これをみると恋愛の神とかいいんじゃないか? 美人に囲まれてるしな」
「マジ? え? マジ? そう見えるの?」




