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そういえば羽を毟られるのが嫌なんだったか。
「知能が低い動物たちはフェアの大事な羽を狙ってくるの、でも、狙ってこないなら別にフェアは怖くないの」
ネッコは変身すると狙ってたな。蛇以下か。
「それに襲っても来ないの、相手から来るのは怖いけど、今は全然……怖くないの! 毒なんて治してもらえばいいの! 神なら出来るに決まってるの!」
この世界の毒はそこまで恐れられていないのか、それとも俺か女神を信用しているのか。
自分に言い聞かせるように言うフェアは、いつもの臆病なところが少し違っていた。
蛇に近づいていき、手を出しては引っ込めて、後ろに回ってみたり、周りをグルグルして、反撃してきた蛇にビビって距離を取り直したり。慣れてくると、反撃した後に少しだけチョンと触ったりしていた。
「いける……いけるぞフェア! お前なら出来る! 考えても見ろ、お前はあの巨大なサンドスネークを倒すのに一躍買ってるんだ! そんな攻撃もしてこないショボい蛇なんかに負けるはずない!」
「そうなの! フェアはあのサンドスネークを倒したの! フェアの岩投げが効いてあのサンドスネークは倒れたの! 全部フェアがやったの!」
違うけどな。全部俺に当たってたぞ。
「そうだ! お前ならできる! いや! お前にしかできない!」
気分が高揚したのかフェアが言った。
「ぶっ飛ばすの!」
フェアが自分から仕掛けた。上空で一度止まり蛇めがけて真っ逆さまに落ちる。そして腕が降り降ろされ、蛇に当たる瞬間、爆発したかのように膨れ上がった。
「潰れるのおおお!」
蛇も牙を突き立てたがそのまま押しつぶされた。といっても戦闘不能に見えるだけで死んではいないだろう、回復魔法とかあるなら助かると思う。
女神が勝負の終わりを告げるとフェアが胸に飛び込んできた。
「いたいのおおお! ちょっと刺さったのおおお、治してなのおおお!」
わんわんと泣かれても俺は治すすべを持っていなかった……。その毒は、皮膚を少しずつ溶かしているような、傷口が広がっていくように見えた。
……が、普通に女神が治してくれた。さすが神だ、俺も見て覚えた。
酸性の毒とかだったのだろうか、やっぱり異世界の魔物は調べてもわからん。
「もう二度と戦わないのおおお! 頑張ったのおおお」
「ありがとな」
初めて心の底からお礼を言った気がした。だんだんと泣き止んでいく。
バリバリという音が聞こえ、反対側を見ると。大男が蛇を食べていた。
女神も顔をしかめている。
「これが僕の作った彼のギフトですよ、勝った気になるのは早いですよ?」
エグイし、ってゆーかギフト作るとかずるくない?
「おい女神、あんな吸収していくらでも強くなれます、みたいなギフト作れたらチートじゃん」
「そりゃ神だし。でももちろん制約とか制限があるし、無限に強くなるなんてのは不可能だし」
そういうものか。
大男は無傷のグリフォンも平らげると、体が変形していった。尻尾が蛇で体がグリフォン、大きさもネッコが化け猫になった時より一回り大きい。マンティコアと呼ぶにふさわしい姿になった。
「さて、最後の勝負だね」
相手のマンティコアは空を飛び、ずっしりとした肉体で戦いの場に降りた。
ネッコを見ると不安そうに見えた。今までずっと黙っていたのがいい証拠だ。
「棄権、するか?」
「戦うに決まってる!」




