第七節 出会い
ドサッ。
尻が痛い。あの浮遊感は感覚的なものじゃなくて、ほんとに落ちてきたのか?
『よっこいせっと』
『、、、、、、んん?』
なんか声高くないか?
『あー。あーあー。、、やっぱり高い。というか、、』
今気づいたが、俺、全裸だ。
自分の体を見ると、、
大きな胸で足元が見えない。腕はしなやかで細く、視界の隅にうつる髪の毛は黒く長い。肌は透き通るように真っ白で太陽の光を健康的に跳ね返している。
あの神が言っていたサービスとはこのことか。どうしよう。今なら神をも殺せる気がする。
『あと、ここ、どこだ?』
人通りのない小さな路地だが、すぐ隣の道にはたくさんの人の気配がする。
『さすがに全裸じゃまずいよな』
俺はすぐに隠蔽魔法をかけ自分の姿を隠す。
続いて魔力遮断魔法をかけようとして魔法が発動しないことに気づく。
俺はすぐに原因に気づいた。
この世界は魔力が薄い。そのため自身の魔力を利用する魔法は問題なく使えるが、自身の周辺の魔力を利用する魔法は使えないのだ。
魔力遮断魔法は空気中の魔力を使って自分の魔力を隠す魔法だから使えないのか。
しかしこれだと、魔力が認知できないものには俺の姿が見えないが、魔力が見えるものには文字通り丸裸となってしまう。
『まあ、いっか。この世界に魔法が使える人間はいないはずだしな』
そう思い、その場から移動を始めた。
、、、、足が熱い。
カンカンと照り付ける太陽がアスファルトを焼いている。
、、浮遊魔法を使うか。これも周辺魔力を使う魔法だが、自分の魔力で無理やり浮くぐらいならできるだろう。
そうやってフワフワと浮きながら移動をしていく。
途中何人も人とすれ違ったが誰も俺の姿を認知できていない。
魔力の無い世界に助けられたな、、、
そんなことを考えていると正面から歩いてきた女性が急に立ち止まってこちらを見た。
その手にはどうやら買い物帰りであろう袋を提げていたが、それも落としてしまった。
、、、え?目が合ってる気がする?
まるで不審者を見るような彼女の目。いや、まるでちょっと浮いてる全裸の女性を見つけたような目。
俺の後ろに不審者でもいるのだろう。きっと。おそらく。頼む。お願いします。
、、、、、、振り返っても誰もいない。
『あの、、、見えてる?』
その女性はコクリと頷いた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
なぜか俺はこの女性と一緒にどこかへ向かっていた。
この女性は一体何者なのだろう。こんな時に鑑定のスキルがあればと思うが、あれも魔力と一緒に封印してしまった。
よくよく女性を観察する。かなり若く見えるがそれでも10代ではないだろう。20代後半ぐらいか?ううむ。人間の見た目の年齢なんぞ俺にはわからんぞ。
背丈は低く見えるが、町ですれ違う他の女性に比べると高く見えることから、この女性が低いのではなく俺の背が高いと見たほうがいいな。
何より謎なのがこの女性が魔力が認知できていること。
一体どうやって、、、
考え事をしながら女性についていくととある一軒家にたどり着いた。
ここは女性の家か?
「入ってください」
彼女ははっきりと俺を見つめながらそうつぶやいた。
彼女が冷蔵庫に買っていた食材を詰める間に、俺は浮遊魔法と隠蔽魔法を解除し彼女に話しかけた。
『なあ、何か着るものを貸してくれないか?』
すると彼女は驚いた様子でこちらを振り返り言った。
「え!?幽霊って服を着れるの!??」
、、ん?幽霊?俺が?
彼女から見た自分を想像する。
周りの人には明らかに見えていない。なぜか全裸。なんかちょっと浮いてる。
、、、うん。幽霊だわ。俺
『俺は幽霊ではないぞ。れっきとした人間だ。ほら、物も触れる』
試しにテーブルの椅子を引いてみる。
「ほんとだ。、、、でも浮いてなかった?全裸だし、誰も見えてなかったみたいだし」
『それは魔法を使っていただけだ。全裸だった理由は聞かないでくれ』
「魔法、、、?」
むむ、なんだこの反応は。
この女性は間違いなく魔力を認識できている。なのに魔法を知らないのか?
「とにかく大変な事情があったのは分かったわ。服も持ってくるからちょっと待っててね」
その後彼女はどこからか持ってきた服を俺に渡し、なんと茶までふるまってくれた。
「ねえ、あなたはいったい何者なの?魔法というのも嘘じゃないみたいだし」
こっちのセリフだ!!
と言いたい気持ちをぐっと抑えて、自分が転生者であることを隠しつつ、「本気で死にかける経験をしたら気づいたらこうなっていた」という風に伝えた。まあ嘘は何一つ言っていない。
ただ、その死にかけたエピソードを適当に話を盛りつつ喋っていたらいつの間にか
「大変だったのねぇぇ、、ぐすっ、、いつでも私を頼りなさいね、、もううちに住んじゃいなさい、、ひっく、」
ガチ泣きされた。この人大丈夫だろうか。
『あまりにも信じすぎではないか?俺が悪意を持った人間ならどうするつもりだ』
つい説教じみたことを言うと
「大丈夫。私は人を見る目はあるのよ。あなたはとってもきれいで優しい女性よ」
やっぱり不安になるのだった。
そうしてしばらく話をしていると、女性は思い出したように
「いけない!もうこんな時間!晩御飯作らなきゃ」
というとパタパタと台所まで行き料理を始めてしまった。
『あの、やはり俺がいたら迷惑ではないのか?あなたにも家族がいるのだろう?』
「いいのよ。むしろ私はあなたと娘を会わせたいの。娘は最近倒れてしまってね。その日以降少し変わったの。言葉じゃ言い表せないけど何かが変わった。あなたは娘と同じなにか特別なものがあるわ」
確かに俺は特別だろう。転生者で魔法が使える唯一の存在だ。だが、
『何を根拠にそう言い切れる?』
そう問うと女性はにこりと笑い言い切った。
「母の勘よ」
それから数十分もしただろうか、俺はとある方角から魔力の反応を感知した。
明らかに魔法を使っている。この世界には薄いながらにも魔力こそあるが、それを使いこなす魔法というロジックは存在しない。この世界で魔法を使うなど本来あり得ないのだ。
、、、、というか、この魔力。どこかで、、、、うーん、、
、、、、あぁ、そうか、思い出した。
思い出すと同時にドアが勢いよく開く
「お母さん!!!!」
やはりというか、そこに立っていたのは前世の姿によく似た、、
『久しぶりだな、勇者よ』
やっと土台が書けました。。。
魔王様の前世もどこかで書きたいですね。
次ページからはまた勇者ちゃん視点に戻ります。