第六節 魔王の転生
「起きるのだ」
む、なんだこの声は。俺は死んだはずだが。
「おお、流石は魔王。すぐに目覚めたな」
頭に響く男性の声。不思議とずっと聞いていたくなるようなそんな声。
いや、そんなことより。
「ここはいったいどこなんだ?」
お、喋れた。
「ああ、ここはな、、、んん!?ちょっと待て。お前今喋ったか!?」
「いや、喋ってるだろ。聞こえてないのかな」
「いや、聞こえておる。なぜ魂だけの存在なのに喋れるのだ、、、規格外だな」
なんかぶつぶつ言っているが早く質問に答えてほしい
「ん、、ああそうだな、ここは神界だ。私はお前のいた世界で生命を司る神だ。お前の生前の行動はよく見ていた。生き物を愛し、自然を愛したお前は、あの世界の環境を守るため様々な行いをしていたな」
「まあ死に際にすべての生物を殺せる結界を張ったけどな」
皮肉っぽく俺が返すと
「まああれはしょうがないのだ。お前の魔水晶が人間に渡るよりはよっぽどましだろう。、、だいたい人間は環境を軽視しすぎなのだ。全く。文化の神の管理が甘いからこんなことに」
またぶつぶつ言い始めた神。なんか苦労人っぽいな。
「ところで、なんでそんなえらい神様のところに俺がいるんだ?」
そうすると神は少し自慢げな声で
「何、お前に褒美を与えようと思ってな。お前が行っていた環境保全活動は、本来神である私やそれ連なる天使がする仕事なのだ。しかしうちは人手不足でな、お前の存在には助かっていたのだ」
なるほど、褒美か。もともと自分の趣味でやっていたことだが、自分の功績を誰かに認められるのも悪くない。
「それで、褒美とは何だ?」
「うむ。お前に転生の機会を与える。」
転生?なんだそれは。
「簡単に言えば、お前の次の人生を選ぶ権利だな。世界とはお前がいたあの世界以外にも様々な世界があるのだ。好きなように次の人生を歩むといい。私がそのサポートをしよう」
ふむ、分かったような気がする。
「つまりわがままを言っていいってことだよな?」
「そういうことだ」
うーむ。しかしいきなり言われてもな。俺が望むもの、、、
「自然が豊かなところがいい。いろんなきれいな景色がある世界」
「そんな世界無数にあるのだ。もっとわがままを言っていいのだぞ?」
「じゃあ、戦いの無い世界がいいな。俺のように生きているだけで誰かに命を狙われたり、あの少女のようにいいように扱われて捨てられるものがいないような世界」
うーん、と神は悩み声をあげる。
「争いがない世界はないのだ。悲しいことにな。生き物はみな、他な生物を糧にしなければ生きられない。だが、それでもあの世界よりははるかに平和な世界があるぞ。その世界には魔法がないのだ」
魔法がない、、、
そんな世界がどうやって発展するんだ?
「科学という技術が発展しておる地球という星だ。その中でも特に安全な国に転生させよう」
なるほどな。魔法がない世界というのも興味がある。
「わかった。じゃあそこにしてくれ」
「よし決まりだ。だがその前にいくつかやっておかねばならんことがある」
やるべきこと?いったい何なのだろう
「お前の力を封印するのだ、魔王よ」
「力に封印?そんなものがいるのか?俺はただ生まれ変わるだけではないのか?」
「ああ。地球には魔力がほとんどない。だから魔族も存在しないのだ。だからお前は人間として転生することになるのだが、お前の力ははっきり言って規格外すぎる。この神界で魂のみの存在なのに普通にしゃべるなどありえないからな。だからお前の力をギリギリ人間レベルになるまで封印しないと人間として転生できないのだ」
なるほど。仕組みはわからんが封印が必要らしい。
「それではさっそく封印を開始するから、まずはお前の魔力を開放してくれ」
「あれ、俺は死んでるのに魔力を持ってるのか」
「ああ、お前の持つスキル『魔力吸収』と『魔力変換』によってお前の魔力は魂と結び付けられておるからな」
ふむ。そういうものなのだろうか。まあいいか。
俺はいつもの感覚で魔力を開放させた。
「、、、、、、、、なんだこのばかげた魔力量。神である私よりも多いぞ、、」
ごほんと一つ咳払いをした神は続けて言った
「まあいい。今から封印を開始するが、かなり時間がかかる。私には他にも仕事があるからな。だからお前は今から行く世界について勉強しておくといい。特に言語は前の世界の人語とも異なるからな」
ドサドサッと空間に現れたのは大量の本。数千冊はあるんじゃないのか、これ。
おいおい。封印に一体何年かけるつもりだ。。。
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16年後・・・
「あ”あ”ぁぁぁぁ!やっと終わったぁぁぁ」
「キャラ崩れてるぞ」
とんでもなく疲ている声が頭に響く。どうやら俺の魔力量が異常に多かったのと、本来一人一つしか持てない特殊スキルを俺が複数個持っていたこともあり、封印が難航したようだ。
そもそも封印は確か闇属性のはずだし、闇属性への耐性が高い俺に封印はかなり相性が悪かったみたいだ。
結局スキルもどれか一つに絞る必要があったため、食べたものをなんでも魔力に変換できる『魔力変換』のスキルのみを残し、他はすべて封印してもらった。
この16年間で俺は日本語をマスターしある程度の文化を勉強した。
神がくれたこの書物ならば、もっともっと詳しく世界について知れるのだが、自分の目で確かめたいという思いがあったため、あえて程々にしておいた。
「待たせてしまったな。魔王よ。ようやくその時だ」
「ああ。ありがとう。俺に転生のチャンスをくれて。必ず幸せになるよ」
ふっ、と神がやさしく笑ったかと思うと急に体が浮遊感に包まれた。
おお。これが転生の感覚か。
だんだん意識が遠のいていく、、
そんな中、最後に聞こえたのは
「遅れてしまったお詫びに、いろいろサービスしといたから」
妙に軽い口調の神の言葉だった。