第四節 出会い
私が記憶を取り戻してから2週間がたった。
あの後、病院で精密検査を受け、特に異常なしの診断をもらった私は次の日には退院し、日常生活に戻っていた。
教室で倒れてしまったこともあり、クラスメイトからはかなり心配をされたが、前世のさみしい記憶を持つ私にはその心配が嬉しかった。
また、私の生活の中で大きく変わったことがある。
それは魔法。
勇者時代の記憶を取り戻すことにより、私はいくつか魔法が使えるようになっていた。
といっても私は生まれも育ちもこの地球だし、魔力を扱う感覚は思い出せても、魔力量や勇者の証が復活するわけではない。
そんなわけで最近の私は、学校が終わり家に帰ると自室にこもり、この世界でどれぐらい魔法が使えるかの検証を行っていた。
結果から言うと、この世界で魔法を使うことは非常にリスクが大きいということ。
というのも、地球はとにかく魔力が薄い。空気中の魔力もほとんど感じ取れないほどに薄いのだ。
そのため、魔法を使う際に自身の魔力のみで魔法を構築しなければならない。だからこそ、魔法が安定しないのだ。
それ以外にも問題点はあり、魔力が薄すぎるがゆえに、消費した魔力をほとんど回復できないのだ。
魔力とは生命力であり、それが尽きることは命の危機に直結する。そのため、魔力の濃い前世の世界であっても、魔力を即座に回復できるマナポーションは冒険者にとっての携行必須アイテムだった。
この世界には魔力を回復させる手段がないに等しい。そのため、魔法の使い過ぎによって魔力が尽きると、死は免れないだろう。
だからこそ魔法は基本的に封印しよう、というのがこの2週間で私が出した答えだ。
まあこの世界は安全だし、魔法が必要になる場面もほとんどないだろうしね。それに一人だけ魔法が使えるのもなんかズルしてるみたいだからね。
――ピンポーン
そんなことを考えていると、家のインターフォンが鳴った。
「里奈ちゃーん!学校遅れるよー!」
倒れた日以降、こうして毎朝茜が迎えに来るようになった。
かなり心配をかけてしまったようだし、茜のやさしさに甘えておこう。
「今行くよ」
2階の部屋の窓から玄関にいる茜に声をかけて、すぐに支度を整える。
ガチャ。
「ごめん遅くなった。茜は今日もかわいいね」
「なんで遅刻しそうになってるのにそんなに余裕そうなの!?あとありがとう!里奈ちゃんもかわいいよ!」
怒っているのか照れているのか褒めているのかよくわからないテンションの茜とともに学校へ向かう。
どうかこの幸せな日々がずっと続きますように。
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その瞬間は唐突だった。
5限目の終了を告げるチャイムが鳴ったと同時に、
ズンッ
と重たい気配が現れた。
なにこれ。魔力?なんでいきなり?
方角を探るとその魔力はどうやら学校から見て商店街のある方向にいるらしい。
というか、この魔力量。めちゃくちゃに多い。これ、前世の私ぐらいあるんじゃないの?
自慢ではないが前世の私は王国で一番の魔力量を誇っていたのだ。ある日魔力が伸びなくなって、魔法について師事していた師匠に相談すると、人間という種族が持てる限界値に到達してしまったらしいというのが分かったほどだ。
それに加え、勇者の紋章の効力により魔力が無制限に自動回復する私は実質無限の魔力を持っていたのだが、この魔力は、師匠が言っていた「人間としての種族の限界」レベルの魔力を持っている。
今の私の魔力量は一般人よりも少し多い程度。前世なら戦いには連れていけないレベルの魔力しか持っていない。
圧倒的な力の差があることは明白だが、もしこの魔力の持ち主が悪意あるものであったなら、きっと私が戦わなければならないだろう。
神様、、、この世界は平和なんじゃなかったの、、、?
担任の佐藤先生に体調不良を伝え、早退することにしよう。幸いにもつい最近倒れたばかりだから認めてくれるだろう。
「里奈ちゃん。どうしたの。顔色悪いよ??」
茜が私をひどく心配そうな目で見つめてくる。
「あぁいや、、ちょっと気分がよくないから、、その、、帰ろうかなって」
「大丈夫??もう倒れたりしない?病院行くの?」
茜が泣きそうな顔をしている。茜は泣き顔もかわいいが、嘘で友人を泣かせてしまうのは私の本意ではない。
最近は本当に心配をかけているからなぁ。うーん。
幸いにもこの魔力が大きく暴れるような気配はないし、学校終わりに様子を見に行くことにしよう。
「大丈夫。茜のかわいい顔見てたら治ったよ。心配してくれてありがとう」
そういいながら茜の頭をなでていると、6限のチャイムが鳴った。
「本当にしんどいなら無理しちゃだめだよ?」
顔を少し赤くした茜はそういって黒板のほうを向きなおすと、6限の授業が始まった。
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「ごめん茜、今日は先に帰るね」
帰りのHRが終わった後、私は茜に一方的にそう告げ、学校を飛び出した。
6限の半ばぐらいから魔力は動き始め、今は商店街ではなく住宅街の方向にいるのだ。そちらには私の家もある。
嫌な予感しかしない。。
汗をにじませながら走る。途中で身体強化魔法を使い、風よりも速く走る。
魔力に近づけば近づくほど、嫌な予感は確信に変わっていった。
「あの魔力がいるの、、、私の家だ、、」
さらに多重で身体強化をかけ一気に自分の家にたどり着き、急いでドアを開ける。
「お母さん!!!!」
「あら、お帰り。今日は早かったのね」
、、、、、、え?あれ?
お母さんすごく元気そうなんだけど、、
「それより里奈。お客さんにあいさつしなさい?」
お母さんが掌で示す先には、
『久しぶりだな、勇者よ』
なんかとんでもない美人なお姉さんが圧倒的な威圧感とともに座っていた。
やっと会えたね。。。
次ページからは魔王様サイドの話になります。




