第三節 記憶
長い夢を見た。
私がこことは全くの異世界で勇者として生まれ、強くなるためにとにかく修業をし、魔王に挑み、破れ、王国の人間たちの策略によって命を落とした夢。
その後神様に出会い、この地球に転生をしたのだ。
目を覚ますとそこはおそらく病院だった。
白い天井に、患者のプライバシーを守るためのカーテン。病院特有の薬のにおい。
私はいったいどのくらい気を失っていたんだろうか。ていうかこういうときってどうすればいいんだろう。とりあえずナースコール?
ベッドの上部に取り付けられた赤いボタンを押すと、すぐに看護師さんがやってきた。
「勇気さん。お気づきになられたんですね。体調はいかがですか。」
特に問題ないことを伝えると、簡単なバイタルチェックの後に、私の担当医であろう男性の先生がやってきた。
「あの、私はいったいどうなったんでしょうか」
真面目そうな雰囲気のある先生に聞くと
「勇気さんは、二日前の午前中に学校で気を失ったのち、すぐに救急車でこちらに運び込まれました。様々な検査をしたのですが、大きな異常は見られず、丸二日ほど意識が戻らない状態が続いていました。ただ、脳波に関しては少し乱れが確認されておりましたので、改めて検査をさせてください。」
なるほど。丸二日も寝ていたのか。むしろ16年分の記憶が頭に入ってきたのだ。たった二日で済んだと考えるほうがよさそうだ。
「それから、ご家族にはすでに意識が戻ったと連絡をしておきましたので。もう一度検査をして、異常が見つからなければ退院となります。」
「わかりました。ありがとうございます」
まあ、倒れた原因はわかっているし、体に異常はないだろう。
その後少しだけ看護師さんとお話をしてから、病室のベッドに寝転がった。
それからしばらくすると病室のドアが2回ノックされ、勢いよく開いた。
そこから現れたのは、
「「里奈!!」」
「お母さん、、、と、お父さん!?」
そこにはお母さんと、普段は単身赴任で家を離れているお父さんの姿もあった。
私が目を覚ましたと聞いて飛んできたのだろうか。
「よかった、、本当に、、」
お母さんが私を抱きながら涙声で言った。
さらにその外からお父さんがお母さんごと抱きしめてくる。
「心配したぞ、、」
お父さんのひげが顔に当たってチクチクする。普段は必ず剃っているはずなのに。どれだけ急いできたんだろう。
私はそれが嬉しくてつい笑ってしまう。
「お父さん、お母さん。大好きだよ。」
前世の私は、こんな家族の温かさを知らないまま死んでしまった。
「里奈ちゃん!!目が覚めたって聞いたけど、、、」
こんなにやさしい友達を持たないままに死んでしまった。
当の本人は、家族三人で抱き合っているところを見て、ヤバイミスったという顔をしているが。
あぁ。神様。
ありがとう。
私にはこんなにも素晴らしい家族がいます。
こんなに素晴らしい友達がいます。
私は幸せです。
まあ、恋愛だけはまだだけどね!!




