第十五節 お姉ちゃん勝負!その2
早紀ちゃんはその大きな胸を張ると声高々に宣言する。
「お姉ちゃん勝負第二種目は、、、」
ごくり、と生唾を飲み込む。
マオも茜も緊張した面持ちで早紀ちゃんの言葉を待つ。
「お料理対決です!!」
おおーとマオと茜がハモる。なかなかいいリアクションに気をよくしたのか早紀ちゃんは上機嫌になって続ける。
「ルールは簡単。それぞれの妹役の子にお昼ご飯を作ってあげてね。ちなみに里奈ママの許可ももらってあります」
ドヤ顔早紀ちゃん。いつの間にお母さんに許可を、、、
「ちなみに妹役はさっきと交代ね。よろしくね、茜ちゃん」
そう言いつつ早紀ちゃんは私にウインクする。
なるほど、どうやら私の周りにはそういったお節介好きが多いようだ。だって早紀ちゃんの目が普段のお母さんと一緒だもん。特に私とマオが一緒にいるときのあの目にそっくりだ。
何となくむず痒い気持ちになりつつちらりとマオのほうを伺う。
マオって料理できるんだろうか。こちらの料理とあちらの世界の料理じゃかなり違うからなぁ。
向こうの世界では、地球ほど食材の保存の技術が発展していなかったため、スパイスや塩を強く効かせて乾燥させるといった調理方法が多く、地球で言うところのエスニック料理のようなものが主流だった。
何より魔王っていう立場で料理なんてするんだろうか。大丈夫かなぁ。
私の心配そうな目線にすぐに気づいたマオは少し恥ずかしそうにしながらも、
『多分大丈夫。里奈が学校に行っている間に少しずつママさんに教えてもらっているから』
そういいながら私の頭を撫でてくる。いつもだったら頭を撫でられても嬉しいだけだけど今はやめてくれ。ほら、向こうチームがめっちゃ見てきてるから。特に早紀ちゃんはすごいニヤついてる。悪趣味だぞ、早紀ちゃん。
「、、、あぁ、やっぱり尊いぃ」
声が小さすぎてよく聞こえないが茜も何か言っている気がする。全く、見世物じゃないんだぞ。
そういえば、いつの間にかマオはお母さんのことをママさんと呼ぶようになっていた。まあ多分お母さんが呼ばせているんだろうし、その前までは里奈の母とか呼んでたからママさんのほうがよっぽどましだ。
少し緊張している様子のマオだが、まあ本人が大丈夫って言ってるんだし大丈夫でしょ。私はマオを信じよう。
「じゃあさっそく始めようか」
早紀ちゃんの声で、勝負の火ぶたが切られた。
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「何を作ってくれるんだろうね。楽しみだね、里奈ちゃん」
私と茜は自室に戻っていた。早紀ちゃん曰く、こういうのは出来てからのお楽しみだそうで、二人の料理が完成する間私たちは自室待機を命じられていた。
「そうだねえ。早紀ちゃん料理上手だから、きっとおいしいものが食べられるよ」
早紀ちゃんは昔からほんとに何でも出来た。それは料理も例外ではなく、昔から遊んだときはよく料理を作ってくれた。あんなに優秀な人が自分を妹だと思ってくれていることに嬉しさと同時に申し訳なさを感じる。あれだけ信用して、心配してくれているのに、私は早紀ちゃんに隠し事をしている。それは、目の前で目を輝かせているかわいい私の幼馴染も同じだ。
二人にはいつか話さなきゃいけないなぁ、、、
信じてもらうのは簡単だ。ただ魔法を使って見せればいいだけ。でも、そのあとに受け入れてもらえるかは分からない。
魔王は強すぎるがゆえに孤独だった。勇者だった私も人類の希望だ何だと担ぎ上げられ、ただその力を利用され、友達なんて一人もいなかった。
この世界において魔法は強すぎる力を持っている。私が身体強化を使えば、この世界にあるほとんどの記録を更新することができるだろう。
「、、里奈ちゃん?大丈夫?また具合悪い?」
茜の声で思考の海から戻ってくる。
目の前では心配そうに私を見つめる茜。
「、、大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけ。心配してくれてありがと」
頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める茜。
大丈夫。きっと大丈夫。私が本当のことを話したとしても、きっと茜なら、、、
また考え事を再開しようとすると、茜が私に近づいてくる。
ほぼ密着している状態から茜は私の首に手を回す。そのまま自分の胸元に私の頭を抱えるように抱き寄せると、小さな声が耳元で聞こえた。
「里奈ちゃん。何か悩みがあるんでしょ?」
その言葉に私は体が少しこわばる。
それを感じ取ったのか、茜は手を私の背中に回すとトントンと子供をあやすようにやさしくたたく。
「大丈夫。無理に聞いたりはしないよ。何か言えない理由があるんでしょ?」
やさしい声が私の体を満たしていく。
「私は里奈ちゃんのこと大好きだよ。親友だもん。だから、里奈ちゃんが話せるようになったらでいいから、里奈ちゃんの悩みを私にも一緒に背負わせて」
その言葉に涙がこぼれそうになる。こんなに素晴らしい親友が私にはいるんだ。
でも、だからこそ。失うのが怖い。私が転生者だと知り、超常的な力を操ると知ったら怖がられるんじゃないだろうか。人を簡単に傷つけ、殺せる力。私がこの力を人に使うことはあり得ないが、それでも。
震えてしまう私に、私の親友は心を見透かしたかのように、私が一番欲しい言葉をくれる。
「大丈夫。たとえどんなことがあっても私は里奈ちゃんの親友だよ」
「、、、、うん、、、ありがとう、、、ありがとう」
私は茜の腕の中で小さくうなずきながら、何度も何度もありがとうを繰り返した。
お姉ちゃん回かと思いきや茜ちゃん回です。
次話は久しぶりの魔王様視点の話になります。




