第十一節 名前
どうやらお母さんは体調を崩した私用にご飯を作ってくれたみたいで、魔王が持ってきたのはおかゆだった。
まだ満足に体が動かない私に魔王はおかゆを食べさせてくれる。魔力が原因で弱っており、胃腸は平気なので普通の食事でも大丈夫なのだが、せっかくお母さんが作ってくれたのでしっかりと食べる。
「里奈ー。様子はど、、、あらあら」
私の様子を見に来たお母さんが、魔王が私に食べさせている姿を見てにやりと笑う。
「マオちゃんのご飯も持ってきといたわよ。お母さんお邪魔かもだから部屋出るね」
『別に邪魔などではないが、、、、ありがとう』
にっこりとした顔のままお母さんが部屋を出ていく。魔王の顔が若干赤くなっている。
「ごめんね。お母さんそーゆー話題が好きなんだよ」
昔からことあるごとに娘と恋バナをするのが夢だと語っていた。今まで私にはそんな浮いた話などは無かったから、その反動なのかもしれない。というか、お母さんは魔王でいいのだろうか。今は女の子になっているわけだし。
「てか、今マオって呼ばれてなかった?魔王の名前?」
お母さんのセリフを思い出しながら問う。
『あぁ。もともと俺は名前など持っていなかったんだが、お前の母に名前を聞かれてしまって。つい「魔王」と答えたらいつの間にかマオになっていた』
まあ名前がないと不便なことも多いし、聞き間違いでついた名でもあったほうがいいだろう。
「そうなんだ。マオ、、マオ、、。うん。呼びやすいしいい名前かもね」
『名前で呼ばれるなんて初めてだから変な感じだ』
少し顔が赤い魔王は照れながら言うと、
『ほら、まだあと少し飯が残っているぞ。』
ふーふーと息でおかゆを冷ましながら口元に運んでくる魔王。ママみがすごい。
「あーん」
最後の一口を食べ終わる。すると魔王も
『よし。じゃあ俺も食べるとしよう』
と、お母さんが持ってきたご飯を食べ始めた。
お母さんが作ったのはオムライスのようで、とろとろの卵が乗ったおいしそうなオムライスを魔王が頬張る。
『お前の母の料理はおいしいな』
少し微笑んだ魔王がお母さんの料理をほめる。なんだか私もうれしい。
魔王は長い髪を耳にかけると、そのまま黙々と食事を進めていった。
『ふぅ。ご馳走様』
ものの数分で食べ終わると魔王は満足そうに破顔した。相変わらず笑顔がかわいい。
その後魔王は自分と私の食器を一階にもっていき、また私の部屋に戻ってきた。
『さて、飯も食ったし、お前はもう少し休め』
「うん。そうさせてもらうよ」
朝よりはだいぶ楽になったけど、私の魔力量は依然少ないまま。未だ魔力欠乏症は治っていないのだ。
『魔力はどれぐらい回復した?』
「うーん。5%ぐらい?よくわかんないけど」
『そうか、、本調子になるまで回復するのには時間がかかりそうだな』
魔王に魔力で包んでもらってもこの程度の回復量。今後は魔力の使い方をちゃんと考えないといけないな。
「でも楽にはなってるし、明日には魔力欠乏の症状も治ってると思うよ」
学校にも行きたいしね。
『ならなおさら早く治さないとな』
そういうと魔王は私をベッドに寝かせると、また私の手を握って魔力で私を包んでくれる。
そしてそのままベッドの横に足を崩して座り、私の頭を撫でてくる。
私は魔王の白くしなやかな手を握り返すと、魔王に聞いた。
「ねぇ。そのまま座ってるのってキツくない?」
魔王は少し考えると、
『うーん。まあ確かに腰はちょっと痛いかもな』
私は重い手を使い、布団を少しめくると
「一緒に寝る?」
と聞いてみた。
すると魔王は顔を真っ赤にして
『な、、何を言っている!?そもそも俺は男だぞ!?』
いやぁ、男って言われましても、ねえ。
目の前にいるのは顔を真っ赤にしてあたふたしているちょっと年上っぽい雰囲気のお姉さん。
そもそも私は女になってからの魔王のほうがよっぽど見ているのだ。男の時の魔王も確かにすごくイケメンだったと思うが、あれはもう前世。今の魔王は美人な女の子だ。
『だいたい、お前はもっと俺を警戒しろ。魔王だぞ?魔王。』
威厳を示すためなのか、私の手を一度放し、大きな胸の下で腕を組んで鼻息を荒くしている。なんだか妙に様になっていてかわいい。その後も必死になって自分は危険だのお前たち親子は危機感が無さ過ぎるだのと早口で語っている。それがどうにもおかしくて
「ふふ。魔王。冗談だよ」
『な、、?じょ、、冗談?、、、そういう冗談は良くないぞ。俺が本気にしたらどうするのだ』
変わらず顔が真っ赤な魔王がジト目で見つめながら言ってくる。なんだか魔王って仕草が男っぽくないんだよなあ。女性としての仕草が様になっているというか、なんというか。とにかくかわいい。
「別に一緒に寝るぐらいいいけどね。今の魔王は女の子なんだし」
『俺は良くない。そういうのはしっかりと関係を築いてからだ』
すごくまともなことを言う魔王。本当に、なぜこんな人が前世では暴力と虐殺の象徴として扱われていたのだろう。
「魔王はそーゆー相手はいたの?」
ふと気になったので聞いてみる。
魔王はまた少し顔を赤くしながら
『いなかったよ。人間からは完全に敵対視されていたし、魔族からは崇拝の対象として見られていたからな』
なるほど。強すぎると逆に人が離れていくのか。魔王の話を聞いて、魔王に同情するとともに少しほっとする。
、、ん?なんでほっとしたんだ?
『もう話は終わりだ。そろそろ休め。明日も学校とやらはあるんだろう?今のうちに魔力を回復させておけ』
「はーい」
強引に魔王が話を終わらせる。少し乱れた布団を直すと、私の頭を撫でてくる。それと同時により一層濃い魔力が私の体を包み込む。
「おやすみ、魔王」
『ああ。おやすみ』
すぐに私は意識を手放した。
魔王様の名前誕生です。
勇者ちゃんはあまり呼んでませんが、そのうち呼ばせてあげたいですね。
改めて元魔王『マオ』をよろしくお願いします。




