7.男の娘は、宇宙の真理
俺の目の前では、1人の騎士が膝を付いている。その後ろには、同じポーズの戦士たちがならんでいた。
「僕は、太田サノ姫っ!アソラ国一の、姫武者だよっ。僕が来たからには、安具様も安心だね」
ピンク髪のボクっ娘が、参上のあいさつをする。にっこりとボーイリッシュな顔を、俺に向ける。その上目遣い、う〜ん、100点!
とりあえず、ステータスオープンだ。
『太田 サノ姫
政治 26(E) 軍事 52(A) 知力 42(C)』
めっちゃ、大器の予感。
まだ、経験不足だが、成長率Aの軍事持ちなんて、めったにいないぞ。掘り出し物だ。
太田サノ姫。綾野家の家臣で、騎馬部隊を率いる太田家の当主だ。三流家からすれば、陪臣にあたる。
サノ姫は、配下の騎馬300とともに、三流家に寝返った。
理由は、簡単。
「三流家は、女装を支持する」と手紙を送ったからだ。
タマ子の提案したお手紙一つで、騎馬300が味方に。おっさん美少女は、かわいくて、かしこい。結婚して、よかった。
「常識のジジイさ、僕に女装をやめろなんて言ってくるんだよ?おかしくない?ボクはこんなに可愛いのに」
サノ姫は、ぷりぷり怒っている。後ろの屈強な家臣たちも、「こんなにかわいいサノ姫にはついていて、それが女装しているのがいいんだろうが!」と憤激している様子だ。
「それにしても、よくここまでたどり着けたね。綾野側から追手はなかったのか?」
「ふふーん、かわいくて強いボクの戦果を見てください!」
サノ姫は、一回転して、スカートをふわりと浮かせると、背後に置いていた箱を開いて、俺に見せる。
「こいつ、ボクのおしり触ってきたんだよ?いくらボクが可愛くても、ひどくない?」
生首だ。
そうだ。こんなきゃっきゃうふふな男の娘でも、れっきとした武将なんだ。
生首が、あんぐりと口を開けて、俺を見ている。きれいに首の断面は切られている。するどい一撃で、狩られたのだろう。
「すまんが、俺は最近まで引きこもっていてな。あまり、人の顔を知らんのだ。この首は、誰だ?」
「綾野常式。綾野常識の息子だっよ-!コイツ、ボクの女装に反対してたから前から嫌いだったんだ」
おおっ……なんて物騒なやつだ。いきなり元上司の息子の首を持ってきやがった。
「お屋形様、これは……まずいかもしれません」
タマ子が耳打ちする。
「ああ、息子を殺されてブチ切れた常識が、攻撃を早めるかもしれん」
4月までに時間はまだあると思って、戦争準備はまだ進んでいない。
俺とタマ子の深刻さを気にすることなく、サノ姫は、ふんと、その鍛えれた胸を張る。
「ねえ、ボクすごいでしょ!ほめて、ほめて」
頭をなでておく。
すると、サノ姫は気持ち良さげに、ゴロゴロとのどをならした。後ろの家臣たちからの、うらやましい、というオーラもすごかった。血の涙を流して、次の戦では功を挙げ、サノ姫の頭をなでさせてもらうんだっ!と叫ぶやつすらいた。