4.おっさんとの出会い
洞窟の突き当たり、古地図ではここにアイテムがあると書かれている場所には、おっさんがいた。
神々しい光を放つおっさんが、寝ている。
別に頭頂部の話をしているわけではなく、全身からなんか白い光がぼやあと広がっている。
こんなに明るい状況で、熟睡できるのか?おっさん。
すね毛、腹毛、胸毛、ワキ毛、もじゃもじゃだ。足先から、頭頂部まで、つながるモジャモジャ大陸横断鉄道が伸びている。
それに、おっさん、なぜか、生まれたままの姿でいらっしゃる。
あまりにも自然な姿に、人間は赤ちゃんではなく、おっさんの状態で生まれてくると一瞬、思った。コウノトリは、おっさんを運んでくるのだ。
無視だ、無視。
俺は全裸のおっさん鑑賞会に来たのではない。どうして、異世界までやってきておっさんを鑑賞せねばならんのだ。
他の転生者を見てみろ、可愛い子とキャッキャウフフじゃないか。
どうして俺は、おっさんの相手を……
邪念を振り払い、古地図に書いていた手順を踏む。
右から3番目の岩を押して、そこから2歩左に、そして、右に4歩……と複雑な手順をこなした。
すると、ゴゴゴ……と重い音を立て、岩の扉が開いた。
これだけ、厳重なんだ。
家宝は期待はできるにちがいない。
すると、コンビニくらいの大きさの空間に、小さな木箱がひとつ置かれている。
俺は罠がないか警戒しつつ、その小箱を拾い、開けた。
「……?団子?」
本当に小さな白い団子が、入っている。
ステータス鑑定をしてみる。
『性転換の団子』
短い一文だ。
清々しいほどに端的な説明。確かに、このアイテムが何かを理解することはできた。
「なんで、ネタアイテムなんだよぉ!弱小勢力なんだから、救済措置はぁ??????」
「オレにくれないか、その団子?」
まったく気がつかなかった。俺の背後に、おっさんが。あれをブラブラさせながら、おっさんがいる。
漫画とかでよく見る演出だが、実際にやられるとビビる。思わず体がビクッとした。ペチンペチンと俺の尻にブラブラが当たって、もう一回ビクッとした。
このおっさん、強い。ステータスオープンしてみる。
『妖狐
政治 ? 軍事 ? 知力 ?』
妖狐だと?
そんなキワモノキャラは、ランセ・トウイツにはいなかった。それに、このおっさんには俺の唯一の武器であるステータスオープンが通じていない。
正体も実力も未知数だが、全裸おっさんの存在自体がストロングというのは、俺にもわかる。
「なあ、兄ちゃん。オレに、その団子くれよ」
断れば、実力で奪い取られかねない雰囲気だ。神々しいオーラを放つ全裸妖狐と戦って、勝つイメージがわかない。
こうなれば由緒正しき、あの作戦に出るしかない。
「この団子を差しあげたら、お願い一つきいてくれますか?」
「構わんよ。オレは、それをどうしても食べたいんだ」
桃太郎作戦成功。
妖狐が約束を破る可能性もあるが、このまま奪い取られるよりは、マシだ。
おっさんは、俺から団子を受け取ると、性別が変わるというのに、迷いなく口に放り込んだ。
「うわっ、パサパサしていて不味いぞこれ、水はないか?」
その瞬間、部屋の照明程度だった、おっさんの放つ明るさが、探照灯レベルに変わった。
「ぐぎゃあああ、目がああああ。スタングレネードやめろおお」
俺は目を抑えて、地面をのたうちまわった。