3.現状確認
俺、アソラ国守護である三流家当主、三流安具は、数日前に突然体調を崩して、倒れたらしい。
もともと衰えていた勢力は、無能の安具が継いだことで、さらに悪化。主力家臣は離れ、他国からは侵略を受けているとのことだ。
末期状態。
城下町であるトナミマチの様子をみたが、港町で、海鳥が空を舞い、太陽の光を海面が反射して、キラキラとしている。
風景がきれいなのはいいが、肝心の街中は人出は少なく寂れている。
海の美しい風景とは反対に、街では陰鬱な雰囲気が、どんよりと潮の匂いと混じって漂う。
ここ本拠地であるトナミマチだけが、三流家の領地だ。
去年までは、まだアソラ国の大部分を支配下に置いていたが、3ヶ月前に主力家臣である綾野常識が独立。
安具にうんざりしていた家臣の大半もこれに同調。領国経営は崩壊した。
スーパー忠臣、三流家最後の良心、荒野に咲く一輪の花などと称される、土居さんのおかげで、トナミマチ周辺だけは死守している。
<ランセ・トウイツ>でも、三流家はトナミマチだけ残っている状態でスタートするはずだ。
正直言って、三流家は、すでに回復の見込みのない病人だ。どんな名医でも、その死を遅らせるしかない。
確か、綾野常識の能力は、それなりに高かった。何度か綾野家でプレイしたので覚えている。
『政治 55(D) 軍事 78(B) 知力 41(D)』
初期値なので、現在は多少変わっているだろうが、おおよそこの程度だ。軍事特化の平均よりやや上のステータス。百戦錬磨のベテランなので、苦手な政治と知力の能力値も、それなりに伸びている。
大名としては物足りないが、三流家を滅ぼすには、過剰戦力である。
今となっては、彼のステータスで大名が務まらないなら、俺は何が務まるのだろう?考えると悲しくなるので、そこは深く触れない。
こちらで戦えるのは、戦力外の俺を除くと土居さん1人。けれど、軍事78の相手に、28の土居さんでは……
それに、綾野常識以外にも、綾野家には優秀な家臣がいる。
これは詰みだ。
三流家が1ターン目に滅びるのは、自分も含めた全プレイヤーに定期イベントと思われていたのだ。10,000時間プレイして、滅亡しなかったことは一度もない。綾野家に必ず滅ぼされるのだ。
でも、死にたくない。
考えろ、考えるのだ。俺はうんうん、頭をひねる。
「急にアイデアなんて浮かばねえよ……」
俺はどうでもよくなって、仰向けに寝そべった。年季の入った天井が目に入る。
そして、思いつく。
守護を務める古い家には、アイテムが伝わっていることがあるのだ。
家が滅亡すると一緒に消えてしまうので、三流家の家宝を確認したことはないが、あるかもしれない。
「土居さん!三流家には、何か伝わる家宝とかはないの?」
土居さんたち周囲の人物には、俺は倒れてから記憶が曖昧だと答えている。
土居さんたちも、俺の性格が改善されたことに目がいって、記憶喪失の部分には、特に関心が向いていない。尋ねれば答えてくれる。
「……ございます。先代には、安具様が一人前になられるまでは、黙っておくように言われたのですが……ここ数日の、お屋形様のご様子を見ていると伝えても構わないでしょう」
土居さんは、古い地図を俺に渡してくれた。
屋敷の裏山にある洞窟に丸がつけられている。
俺は、屋敷を抜け出して、洞窟に向かった。
松明を持って、暗い空洞を進む。
暗い洞窟を進んでいくと、突然、明るい場所に出た。
外から光が差し込んでいるわけでない。真っ暗な空間が、ライトにでも照らされたように明るい。それも真白い光で照らされ、どこか神聖な印象を受ける。
俺は勇気を出して、歩みを進める。
もしかすると、ものすごいアイテムがあるのかもしれない。軍事+30とかの激レアアイテムだと、綾野家に対抗できるかもしれない。
けれど、俺の予想は、クソの役にも立たなかった。期待した分、マイナスだ。
そこには、「おっさん」がいた。