ちょうちょ
「あ、ちょうちょ。」
梅雨の晴れ間に散歩をする私の目の前に、ちょうちょがふわりと現れた。
オレンジ色に黒い斑点、多分ツマグロヒョウモンだと思うんだけど。
小学校横の緑道を歩く私の目の前を、ふわりふわりと舞っている。
息子がいたら逃げ出したかな。彼は虫全般がお好みでないのですよ。
バタフライ効果かあ。
ちょうちょを見ると、ついつい思い浮かべちゃうんだよね。
ちょうちょの羽ばたきがあるのとないのでは、未来が変わるってやつ。
ちょっとした変化を与えた場合、そのちょっとした変化が無かった場合とは、その後の状態が大きく違っちゃうんだよってやつ。
初めて知った時はさ、すごく怖くなっちゃってさあ。
ちょうちょ見るたびになんか変化してるんじゃないかってドキドキしたり。
いやあ、若かったわ。
でも若かったがゆえに、習慣付いてしまったんだなあ。
ついついちょうちょを見ると、しばし見つめてしまうのさ。
ま、今日は急いでないからね、見てたって問題ないんだけどね。
…通学時間じゃないとはいえ、通学路で立ち止まってると目立つな。
通報される前に歩き始める。
押しボタン式信号のボタンを押してしばし待ち、青色に点灯したので向こう側に渡る。
さあて、今日も頑張りますかね。
渡り終わると、私の背後で、ものすごい勢いで車が急発進した。
ちょっと!まだ信号青の点滅なんですけど!
まあ押しボタンだし、人もいないからこういう車もいるのかね、危ないな…。
ぐぅわっしゃあああああああああああん!!!
「えっ、嘘…。」
押しボタン式信号の先の交差点で、急発進した車が盛大に事故を起こした。
ここから50メートルほどの距離。
近所の人たちがわらわらと出てくる。
「ナニナニ、何の音?!」
「交差点で事故だよ!」
うわぁ…。
どうしよう、私もひょっとして責任あったりするやつなんじゃ。
押しボタン押してあの車を止まらせてしまったから、事故が起きた?
ちょうちょに見とれていた私。
見とれて無かったら、事故は起きなかった?
ちょうちょに見とれていた私。
見とれていたから、事故が起きた?
見とれて無かったら、もう少し早めに押しボタン信号を押していたはず。
そしたら私がヤバかったってことはあるまいか。
辺りに車はなく、渡る人も自分だけだった。
いやいや、赤信号見てちゃんと止まるはずだよね。
ちょっと待て、あの車は信号を無視したから今事故を起こしているんじゃないのか。
いろいろと考えてたら頭痛くなってきたぞ。
…まあいいや、早くマンションに行かないと。
騒がしくなった交差点をスルーして田舎道を歩く私の前に、またしてもちょうちょが一匹。
果たしてこいつは私の運命を変えるちょうちょなのか。
「気にし始めたらきりがないな。」
ここらへんは畑が多いからね。ちょうちょもいっぱい飛んでたりして。
念のために、車が飛び出すはずもない農道を右、左と見まわしてと。
「わあ!!!!」
足元見るのを、忘れてたー!
私は踏み出した一歩目を穴の開いたアスファルトに取られて、ケガをしてしまった、というお話。