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 殺人鬼×職探し



 とりあえずこのよく分からない土地に飛ばされてから暫く過ごしたが、困った事に財政難に陥ってしまった。


 いやぁこっちの言葉を理解する事に全力を注いでたから、資金調達(追いはぎ)にそれ程精を出していなかったから、気が付いたら素寒貧にござーい。


 一応読み書きはともかく日常会話くらいなら出来る様になったし、そろそろライフワークに本腰入れても良いけど、この辺りはどうも人口密度が低いから精力的にやると廃墟の街になりそうだ。


 かと言ってそれ以外に稼ぐ方法を知らない以上、収入は不安定。


 読み書きが出来ないから食材の値段も分からないから何度かぼったくられてると思う、同じ食材を買ってたのに明らかに値段のバラ付きがあった。


 別に無差別殺人でもして稼いでもいいけど……努力目標として(・・・・・・・)無抵抗な人間を殺さない様に心掛けてるからね。


 何にせよ安定した収入と、いい加減屋根のある場所で眠りに付きたい。


 くるくるとナイフを弄びながら金になる話でもないかと、路地裏から表通りへと出ようとしたところ、後ろから肩を叩かれた。


 条件反射的に逆手に握ったナイフを振り抜いたが、相手が身を引いたおかげで前髪を数本切断するだけに留まる。


 背後に居たのは三十代ぐらいの男、裏路地でチンピラやってる人間にしては小綺麗な姿をしている。顔立ちは整ってるけど……まぁ好みじゃないかな。


 

 「おっと、俺は別にアンタをどうこうしようって訳じゃ無いんだ。だからその物騒なもんしまってくれよ」


 「へぇ? その口ぶりだと私を知ってるんだね? それで? 一体何の様なのかなおじさん。もしかしてデートのお誘いとか? それにしては花束も無いし気の利いた誘い文句も無い、そう言う意味じゃ落第点だよ」


 「まぁ当たらずも遠からずってところだな。––––金が欲しくねぇか? 嬢ちゃん」


 「いいね、ちょっと好感触。殺しの仕事かな? それともストリップとか? 脱いでもいいけど見ての通り起伏の無いちんちくりんだから見どころは無いんじゃない? ああでも女とヤれるなら何でもいいって男なら別かな?」


 「おいおい、早合点しないでくれよ。俺がアンタに頼みたいのはそんな事じゃねぇんだ。……此処じゃなんだ、俺の行きつけの店に行かねぇか? 奢るからよ」



 そう言って彼は表通りを指差して此方の様子を伺う。


 この様な申し出は今までにも何度かあった。その度に私は金目当てでほいほいとついて行って、我慢出来ずに依頼主を殺害してしまう為、この申し出をどうするかを考えていた。


 お金は欲しい。けど毎度毎度自分は殺されないと勘違いしてる策士気取りを殺してるから今回も自信がない。でも固い黒パンと生野菜の丸かじりの生活からは卒業したい。


 目下問題なのは殺す殺さないと言う道徳的な話では無く、殺した結果お金も食事も手に入らないと言う事。


 殺さない方法を探すのは論外、私は殺人鬼であって人殺しじゃない。殺人に意味はあるが殺意に理由が無い以上(・・・・・・・・・・)どうしたって手が出てしまう。


 朝髭を剃り忘れてる見たいだから殺す。左利きだから殺す。水を飲んだから殺す。私にご飯を奢ってくれた人だから殺す。目元が知人に似てるから殺す。口元が知り合いに似ていないから殺す。ざっと考えただけで私のスイッチが入る要素が多すぎるからその手の予防策は意味を為さない。


 殺そうと思ってから殺している訳じゃなく、殺してから殺した理由を探すから殺人鬼な訳だからね。


 

 少し考えたものの、結局私は腹の虫に従って彼の後へとついて行くのだった。……この時点で背を向けた彼を殺さない様に我慢するのは辛かったけど。



 ––––案内された場所は酒場のバックヤードの中に隠された地下室。


 見渡した感じだと元々はバーだったらしく、椅子とテーブル、キッチンも用意されている。


 ランタンの明かりを証明にしているからか地味に薄暗く、私達以外に六人居る事に気が付いた。



 「リーダー!! そのガキが例の物騒な奴か? そんなチビが言うほどつえぇのかよ? 態々アジトまで連れて来やがって」


 「そう言うなよフレッド。あのクライスを殺ったのもこの娘んなんだ。腕は確かだよ」


 「ひゅう、そりゃスゲェ」


 

 近寄って来たフレッドと呼ばれた男はそのクライス?とか言う名前が出た途端あっさりと態度を変える。


 殺した人間に対する興味など微塵も無い私は名前を聞かされてもピンと来なかったし、此処に来てから殺し回ってた連中で記憶に残る人物も居ない。


 まぁ思い出せないと言う事は別に何の脅威でも無かったって事だからこれ以上考える必要も無い。

 

 

 「俺はフレッド。『清浄なる世界』のNo.2だ。宜しくな?」



 なるほど、それなりにフレッド君は地位があるんだね? でもそれなら握手する為に手を出して近寄って来るのを止めてくれると嬉しいな、まだご飯を食べて無いから殺すには早すぎる。せめて食後に来てくれると嬉しい、遠慮なく殺せるからさ。


 私は彼の手を無視してカウンター席へと座り、無言でテーブルを叩いてリーダーへ食事を要求する。


 この行動にフレッド君はあからさまに機嫌を悪くしてたけど、別に構わない。どうせこの部屋に居る連中じゃ束になっても私には勝てないから。


 リーダーが彼を宥めながら料理を出す様に指示してくれたおかげで、数ヶ月ぶりにまともな食事へとありつく事が出来た。見た事も無い料理だけどこの際目を瞑ろう、栄養失調気味だし。



 「さて、食べながらで結構なんだが……仕事の話は受けて貰える前提で良いんだな?」


 「それでいいよ、金払いさえ良かったら」


 「なら商談成立だ」



 ––––この時、私は食事に夢中だったので良く考えずに仕事を引き受ける事を了解してしまったが、これが完全に迂闊だった。


 何せ彼らは明らかにイリーガルな連中、奥の方の連中が権力者に対する恨み辛みをつらつら吐き出しては殺してやるだの、全部奪って世の中を平等にするんだだの語ってるし、てっきり暗殺や誘拐でもやらせるつもりなんだと思っていた。実際、今まで接触して来た連中はみんなそうだったからね。


 だから耳に入って来た言葉を理解できずに聞き返してしまったのは悪くないはず。



 「––––アンタへの仕事ってのは、この街の貴族の屋敷でメイドをして貰いたいんだよ」


 「……………はい?」







 

 

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