真相に辿り着いた男
お気に入りの物語が佳境を迎え、あと数頁で最終章に差し掛かろうとする頃
間もなく電車が到着するアナウンスが、ホームに流れた。
男は、区切りをつけるため
その数頁を読み終えようと、物語を追った。
最終章への到着より、電車の方が少し優った。
男は、最終章の一頁手前に栞を挟み
外していた眼鏡を掛けなおそうと、
シャツのポケットに手をやった。
ポケットの中に、眼鏡は無かった。
ん?何処へやった?
男は、ホームのベンチに戻ってみたが
其処にも無かった。
到着した電車の扉が開き、乗客が降りて来た。
この電車を逃すと、後の予定に支障を来す。
しかし、眼鏡をおいて乗る訳には行かず
焦りが頂点に達しようとしたその時、
男は、自らの物語の真相に辿り着いた。
この数分の間、眼鏡はずっと
男の右手の中にあった。
眼鏡を握り締めたまま
眼鏡の在処を追っていた。
これが男の物語の真相だった。
男は、眼鏡を握り締めたまま
閉まり掛けた電車の扉をこじ開け
飛び乗った。