序幕
歴史上の人物の捏造がありますのでご注意ください
最初から僕は兄上の代わりでしかなかった。
母上の溺愛も、兄上がああなってしまったことで本来兄に向けられていたものが代替品として向けられていただけだ。
だから、母上に愛されていると妬むのはお門違いだよ、兄上。
母上に、父上に愛されてるのは兄上の方なんだから。
寂しい、苦しい、辛い。
僕には何もない。いや、今を持って何も無くなってしまう。
母上が兄上を毒殺未遂をしたから、それが原因で僕は兄上に殺される。
とんだ茶番だ、これは兄上が当主になるために母上と共謀したのだろう、僕を殺すために。本当にくだらない、傑作だ。
死が近づいているのだろうか。目が霞む、体が重い。
「死に、たくな…」
死の間際になって、最期にそう思うのか、僕は。
死にたくないなんて。無理に決まってる。兄上たちは僕が生存することは許さないのだろうから。
でも、死にたくない、死にたくないんだ。無様でも、滑稽でも僕は生きたい。
「ほぅ、こんなところで死に体の男と出会うことになるとはな」
突如少女が現れて、男はギョッとする。
兄上程ではないにしてもこれでも武人の端くれ。それなのに少女に気づかなかったなんて。
「お、前、まさか…あやか、し…?」
「今はそんなことはどうでもいいじゃろう?なぁ…おぬし、生きたいか?」
「!?」
『生きたいか』、そんなの生きたいに決まっている。
僕はこんなところで死にたくない、兄上のために死にたくない!
「儂と共に悠久にも等しい時を生きることになるぞ、それでもよいか?」
「生き…ごふっ、ぁ!れる、なら…なんだ…ていい…」
少女は悲しげな表情を浮かべると、僕を抱きしめる。
突然、抱擁されたことに動揺してると首筋に痛みが走った。
これが僕の運命の転換の日だった。
彼女と長い長い時を生きることになる僕の始まり。