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真相の追求

 ―真相の追求―




「母さん、来てたのか」

「邦彦くん…、仕事もあるのに来てくれてありがとうね」


 仕事終わりに妹…明の見舞いに来ると、母親も来ていた。


 時計を見ると19時40分を指していた。

 病院の面会時間は20時まで。俺と母さんがここにいれるのもあと30分もなかった。


「毎日来てるのか?」

「……心配だし、家には私一人だから…」


 明が意識不明になったのが、5月。

 季節はもう10月を終わろうとしていた。


 5か月以上もこんなことが続いているというのに、家には母一人。

 単身赴任の親父は、戻ってきてはいないそうだ。


 確かに、社会を回していた若い世代を中心に意識不明になっているのだから、そのカバーで人員不足は容易に想像がついた。


 想像はついたが、理解はできない。

 我が子である明に対して、あまりにも無関心が過ぎるのではないかとわが父ながら違和感を持ってしまう。


 心配になり、俺も時間を見つけては実家に帰るようになった。

 しかし、実家よりも病院に来る方が母に会えることが多かった。


「母さんも仕事が大変だろう」

「それでも、病院から連絡がくるんじゃないかっていつも気が気じゃなくて」


 スーパーのレジ打ちのパート勤務が終わると、時間を見つけては面会に来ているそうだ。

 5か月以上もこんな生活をしている母親は、見るからに疲れが見えていた。


 何でも、同じ病院には5か月も入院できないようで、2か月すると次の病院を紹介された。

 だが今の病院でも、入院3か月が過ぎ、そろそろ在宅を視野に考えた方がいいと言われているようだ。


 しかし父が家にいない今、母が明一人で見るのは現実的じゃない。

 今後どうしていくことがいいのか、わからないまま時間ばかりが迫っていった。




「どうして…こんなことになってしまったのかしら。」

「……、」


 母さんの言葉に、俺は何も返せない。

 共感なんて、嫌ほどされているだろうし俺だって同じ気持ちだ。


 今は共感じゃなく、改善がほしい。

 社会制度の保証にしても、医療の発展にしても。


「病気について、検査は病院がしている」

「でも、何異常は見当たらないって…」


「だからこそ、俺たちはこうなる前と後で、明にどんな変化があったのか、それが何かの糸口にならないかを知る必要があると…思う」

「だから、お酒も何も飲んでなかったしいつもと変わらなかったわ…あの時も言ったじゃない…!」


 まるで、母さんが明を追い詰めてこうなったと言わんばかりの発言だったのかもしれない。

 母さんが感情的になるのを見て、俺は発言をためらった。


 どうも俺は、心理的なフォローが苦手なようだ。

 それでも、現状を変えるには必要なことだと思ってしまう。


「母さんを責めてるわけじゃない。ただ、事実が知りたい。知らなきゃいけないと思う。」

「でも…聞こうにも、無理よ。明は喋らないもの…」


 そういって、母さんは涙を流した。


「母さん。泣いても何も変わらないだろう」


 言葉がきついかもしれない。

 それでも、もう5か月も経った。


 泣いて立ち止まってるだけじゃ、何も変わらなかった。

 受け入れて、原因追及のために、医療者だけでなく俺たちも何かをするべきだ。


(例え、見当違いだろうと。)


 そう思うのに、俺は明のことを何もしらないのだ。

 実家が居づらい、その理由だけでここ最近は仕事に没頭し実家に帰らなかった。


 見ようともしなかったのだから、仕方がない。

 なのに、懸命に家を守ってきた母さんを責めているようにも見えるのだから、申し訳なくもある。


「母さん、俺は明のことを何もしらない。だから、協力してほしいんだ」

「……私に、何ができるのかしら…」


「明が意識不明になる前に、何をしていたのかわかるか?」

「……SNSを見たらわかるかもしれないわ」

「milkywayか。」

「私はSNSをしていないからわからないけど…毎日更新していたんじゃないかしら」


 確かに、世代的にmilkywayをしていることは納得ができた。

 それを更新していたとなると、意識不明になる前の言動や思考回路を追跡することができる。


「アカウントは?」

「わからないわ」

「……じゃあ、携帯は」

「あるけど…パスワードがわからなくて開けない…」


 パスワードがわからなくても、指紋認証ができる可能性があった。

 意識のない人間の指を使いプライバシーを侵害するのは気が引けたが、手段は選んでられない。


「なら、指紋認証で見てみたい。ここにあるか?」

「家にあるから…明日持ってくるわ。会えなかったのために、床頭台の引き出しに入れておくわ。」

「わかった。次にいつ面会に来れるかわからないが、その時確認する。」

「あの、邦彦くん…ありがとうね」


 母さんは遠慮気味に俺にそういった。

 俺が母さんとうまく距離をとれてないのと同じように、母さんも俺との距離がうまくつかめていない。


「……家族だろう」


 そういって、ぎこちなく笑って見せた。

 こんな風に、歩み寄ろうとすることなんて、ないと思っていた。




 ** *


 次に俺が妹の面会に来れたのは、3日後のことだった。

 なかなか仕事が終わらず、面会時間が終わってしまうことが続き、ようやく携帯を取りに来た際には、母さんの姿はもうなかった。


 床頭台を見ると、約束通り明の携帯電話が入っていた。

 俺は思いつくパスワードを入れてみるが、何一つとして当たることはなかった。


「当たり前か…」


 誕生日くらいしか、思いつく数字はなかったのだから。


 再婚し、年の離れた兄弟として接してきた俺たちは、極端に距離が出来ていた。

 その距離を埋めることが難しく、気を遣わせることも疲れ、俺はすぐに家を出た。


 父も単身赴任で家を離れていることがおおく、母と妹だけが家で住んでいた。

 母と言っても、俺の母親というわけではなかった。


 その形すらかたどることができなかったせいで、今の関係が出来上がっている。

 それでもいいと思っていたが、そうではなかったのかもしれない。


 今の現状とそれが関係あるとは思えないが、俺はそんなこと考えていた。




「明、借りるぞ」


 そういって、俺は妹の指先を使い指紋認証を試す。

 すると、すぐに携帯は起動し、アプリを開くことができるようになった。


 まずは俺だけでも携帯を起動できるように本体のパスワードを変えさせてもらう。


「――1234でいいか…」


 仮のパスワードだ。

 特に思考を挟むことはせず、簡易的な数字を打ち込み設定をし直す。


 その後、milkywayを起動し、最近の状況を確認していく。


 わかったことは、3つ。


 ――1つ。

 明はイラストを描いて投稿していた。

 ――2つ。

 そのイラストが、無断転載と言われアカウントが凍結した。

 ――3つ。

 そのため明の発言は自発的…もしくは公式によって、すべて消されている。


 明の発言がない以上、俺が情報を収集する方法は他人からのメッセージしかない。

 その他人からのメッセージを読み解くと、憶測上そういう事情が起こった可能性がある。


 実際は本当に転載をしたため凍結したかもしれないのだが、それは明の性格上あり得ないと俺が考察し除外した。


 間違いなくストレス的なものは抱えていたはずだ。

 milkywayはそういったストレスを軽減させる目的で使用する者が多い中、それが原因でストレスをためていたとなると、皮肉にもほどがある。


 だが、それと意識不明の関連性は当たり前だがわからない。

 俺は凍結される前の明の現状を、本人の書いた言葉としても情報を得たいと思った。


 そのため、事情を説明しmilkywayの本社に連絡し情報開示を求めた。


 指定された日時に、担当のものが承るとのことだった。

 なんでも、それにあたって医師の診断書が必要とのことで、主治医に依頼した。


 改めて、診断書を手にする。

 〝妹が原因不明の意識不明である〟

 という書類をもって、俺は指定された場所を訪れることになった。




 ** *


「急な申し出に、予定を付けてくださり感謝します」

「いえ、最近はそういった問い合わせが多いんです。意識不明になる直前、どんな行動をしていたのか開示してほしいという気持ちは痛いほどわかります…。診断書はお持ちになられましたか?」


 そういわれ、俺はmilkywayの社員に診断書を手渡す。

 今日担当してくれるというその社員の名札には、〝夕田〟と書かれていた。


 夕田さんは、「拝見します」というと診断書の封を切った。

 内容を確認すると、俺と視線を合わせ


「ご協力ありがとうございます。プライバシーもあるので、開示についての対応のマニュアルがなかったのですがこういう事態ですので…。意識不明の患者家族であるという診断書をお持ちの方に限り、開示することにいたしました。」


 そういって、夕田さんは自身の名刺を取り出した。


「わたくし、milkywayシステム管理課の、夕田ナナと申します。」

「私は星野 邦彦と言います。明の兄にあたります」


 そう言うと、自分も礼儀と名刺を手渡す。


「それではご案内いたします」


 システム管理課の夕田さんの案内で、過去に消去されたログを見ることができた。

 やはり、俺が思っていた通り自身で描いたイラストを無断転載されていたようだ。


 経緯を推測すると、大学の知人に頼まれて描いたイラストを、その知人あたかも自分が描いた作品のようにがネットにあげたようだ。

 それが評価され、知人が有名になったが、作品は自分が描いたものだった。

 明はそれを訂正しようとするも、逆に明の方が無断転載をしたとされてしまい、自分の描いたイラストであるのにその権限を奪われたように見えた。


「……なるほどな」

「何か参考になりましたでしょうか」


 夕田さんの言葉に、苦笑をもらす。


「いや、こちらが想像していた通りと言えば、その通りでした。何か病気の手がかりになることがあればと思いましたが、難しいですね」

「皆さんそうおっしゃいます」


 何も収穫がないまま、帰り支度を整え、サポートセンターを後にする。

 夕田さんは見送りのため、ロビーまで来てくれていた。


「今日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました」

「とんでもございません。」


 一礼しその場を後にしようとする俺の耳に、


「――ですから、milkywayでの炎上が火傷って関係していますよね!?」


 そんな大声が響き、俺は声のする方を見た。

 そこには一人の非常識な女が、対応を求めていた。


「だって私、この間炎上しかけて火傷の跡ができたんですってば!」

「ですから、そのような事例は認めてません。」

「入院中の後輩の熱傷のタイミングも予測できたんです、お話聞かせてください!」

「患者家族と認められない限り、権限がございません」

「……っ、」


「――……変なマスコミか何かですか」

「そういった取材の連絡は予定になかったはずですが…すみません、ここで失礼します」


 そういって、夕田さんはその女の対応に入っていった。

 訴えや行動は非常識だったが、その女の発言は自分が欲している情報でもあった。


(だがここでその話に合流するのは難しそうだな…。)


 俺はその女が建物の外に出てくるのを近くのカフェから見て待つことにした。



 いつ出てくるか予想がつかない。

 俺はいつでも離れられるよう、持ち帰りでホットコーヒーを頼む。


 とそこへ、案外と…というか、案の定というか。

 その女はすぐに、追い出され、建物から出てきた。


 まだ熱いホットコーヒーを持ち、店を後にし俺はそいつに話しかける。




「――突然すみません。」


 女は切り替えが出来ていないようで膨れっ面のまま振り返る。


「なんですかっ」

「先ほど、自分もmilkywayで話を聞いてきたものです。」


「…!、炎上の関係を聞いたんですか!」

「……違います、情報開示です」


「……そうですか…」


 あからさまにしょげている。


「そのことで、話が聞きたいんですが」

「どうせあなたも、私の仮説をバカにするんでしょう」


 milkywayで何を言われたのかは知らないが、よほど否定されたのだろう。

 正直面倒だったが、必要な情報かもしれなかった。


 何とかご機嫌をとり、話を聞く。


「できれば、お話信じたいので詳しく聞かせてください」




 ** *


「お前馬鹿じゃないのか」

「んなっ、さっきまでの敬語どこ行ったんですか!」


 一通り、話を聞くが日本語が支離滅裂すぎて、これでは仮設どころではない。

 期待した自分が馬鹿だったのではないかとため息をつきつつ、そいつを宥める。


「炎上したから火傷になったって?誰が上手く言えと」

「上手く言ったつもりないんですってば!」


 思った以上に根拠が詰まってない話に、俺は肩をすくめながら聞き流す。


「炎上して火傷になってたら、もっとたくさんの事例が報告されてるはずだろう」

「でも、私だけじゃなくて意識不明の後輩も、炎上して火傷したんです」

「意識不明の者がどうやって炎上できるっていうんだ」

「わかんないからmilkywayに来たんですよ!」


 ――話にならない。


「炎上するにはまず発言しないといけないだろう。意識不明の患者にそんなこと可能だって言うのか?」

「……。」


 そういうと、口を尖らせ言葉を詰まらせる。

 そして、おもむろに携帯を開き、俺に見せてくる。


「このアカウント、最期の発言なんて書いてありますか」

「〝ごめんなさい、反省しています。わかってもらいたかったんです…〟?」

「やっぱりあなたも〝見えない〟んですね…。なら信じてくれないに決まってます」


 そいつは意味深な発言をするもんで首をかしげる。


「お前にはほかに何か見えるのか」

「私に見える最後の発言は〝え!怖い…!個人特定された…!ブロックした方がいいのかな…〟です。」


「はあ?」

「あ、ブロックした方がいいのかなって言うのは、私のアカウントのことです。意識不明になった後輩のアカウントが更新され続けるので、不審に思って『後輩ちゃんですか?』ってダイレクトメッセージを送りました。」

「意識不明の後輩に連絡したのか。正気の沙汰じゃないな」


 正直ドン引きしすぎて顔に出たのだろう。

 彼女は眉間にしわを寄せ「もういいです」と席を立とうとする。


「すまない、続けてくれ」

「……そうしたら、本人だったようで個人を特定されたと困惑してました。どうも、彼女にはモヤが掛かってるバグのアカウントのように見えてるみたいで、余計に怪しまれました」


 それが本当だとしたら、色んな事がぶっ飛びすぎていて説明がつかない。


「いたずらやなりすましじゃないのか」

「それだと私にしか見えないという現象の説明がつきません。」


「お前何かの病気じゃないのか」

「いい加減ぶっ飛ばしますよ。ダイレクトメッセージでやり取りをしている彼女は間違いなく意識不明で入院している私の後輩です。職場の人間関係もたまに発言していますが、あまりに色んな情報を知りすぎています。」


「だが、意識不明なんだろう」


 ――問題は、〝そこ〟だ。

 彼女の言おうとしていることは、意識不明下でもmilkywayが使えるということを意味している。


 正直藁にもすがりたい気持ちはある。

 だが、そんな非科学的で根拠がないことを認めるほど、頼りない藁にすがるわけにはいかない。


「……ですが返事が返ってきます。私は別件で炎上しかけて、咄嗟に発言を消したら軽度の熱傷を負いました。本当にそれ以外心当たりはありません。」

「それで、炎上と火傷のタイミングに仮説を立てたって?」

「実際、後輩のアカウントを見ていくうちに、再度炎上したタイミングで後輩は高熱を出して熱傷を負いかけてました。たまたまですがタイミングが予測でき、早期発見ができた事実があるんです。」


 あまり力説に圧倒される。


「失礼だが、職業は…」

「今更ですね、看護師です。」


(……こいつが?)


「悪かったですね、頭悪そうな看護師でっ」


 思ったことが顔に出ていたようで、「あなた本当に失礼ですね」と嫌味を言われる。


「……悪かった、続けてくれ」

「どういう仕組みでそうなってるのかまったくわかりませんが、偶然が重なりすぎていました。だから、私はここに来ました。ですが、当たり前ですが後輩は私と血のつながらりはないんで、診断書があっても情報の開示すらされませんでした。」

「なるほどな」


「もし、この仮定に根拠が認められたら、サービスの停止を提案すべきだと思いました。そうすれば新たな意識不明患者は出ないかもしれません。私は助けられる命があるかもしれないって思って来たのに、それを証明できない…!」


 辛い現場を見続けてきたのだろう。

 彼女から強い使命感のようなものが見受けられた。


 だが、その分盲目になっているようにも思った。


「落ち着け。もしサービス停止を目指しているなら、今意識不明で取り残されている者にどんな影響が出るのか想像がつかない。危険だ」

「……!その発想なかったです…」

「その安易な考えはよくないが、あんたの言い分には興味がある。」


 そこまで言うと、彼女はずっとしかめていた面を上げる。


「え、信じてくれるんですか…?」


 信じがたい。

 だからこそ、俺は妹の携帯を取り出した。


「――お前にこれが読めたら、考えたい」


 明のアカウントは、今は何の発言もされていない。

 凍結にあったため、見れるのは他人からのメッセージのみ。


 俺は、凍結前に消される前に発言していたものは先ほど開示され知っている。

 が、その情報は一切与えずに彼女にそれを見せた。


「最後の発言は、なんて書いてある?」

「……『なんで?』」


「……は?」

「読めって言ったのにその反応酷くないですか」


「…失礼した。お前が何でって聞いてるのかと思った」

「……『絵を描いても添付されない。なんで?』」


 意識不明下で絵を描いている夢を見てるとでも言うのか。

 だが、実際にその絵を描けたわけではないから添付ができないというのか。


 彼女は、こちらの反応を気にせず読める文章を読み続けた。


『絵を描くのが楽しい。みんな私の絵って認めてくれた。わかってくれた。』

『なのに、描いた絵が添付できない。私は本当に絵を描いているの?』


『誰かに認めてほしい。』


 俺が目を見開いていると、その反応をみて彼女はため息をついた。


「その反応…この子の発言、見えないんですね、あなたは」

「ああ…見えない。情報開示を頼むまで、何も見えなかった」


「この子…無断転載したって扱いされて凍結されたんですね…そのあとアカウントが解放されたけど意識不明になってしまった…」


 ……全部消されたはずなのに。

 なんで見えているんだ。


 さっき情報開示で読ませてもらった内容と、更にそこからは読み取れなかった後の情報を次々読み上げる。


 根拠がないのに人を信じることになるのは初めてだった。


「お前…名前は」

「姫川沙織です」

「姫川…」


「さっきから失礼過ぎる人ですね。あなたは何者なんですか」

「星野邦彦だ。そのアカウントの兄にあたる」


「で、星野さんは私を散々馬鹿にしたこと何か言うことないんですか」

「すまなかった」


 その言葉を聞くと姫川は、ふう、とため息をついた。


「じゃあ仲直りですね」


 なんて言い、再び携帯に目を向ける。


「――あっ」

「なんだ」

「『こんな気持ちになるなら、友達相手だろうとお金を取って納得した上で著作権を手放せばよかった』…書き込みが追加されています」

「……!」


 覗き込むが、当たり前だが俺には何も見えなかった。


「駄目だ…言いにくいんですけど…反応がよくないです。読みます。」


『∟こいつ所詮金か』

『∟転載したくせに金取ればよかったってないわ』

『∟反省してねえのか』


「転載したと思い込んでる方々から心無い言葉が寄せられてますね…もしかしたら、〝炎上〟するかもしれない…」

「それは〝比喩〟か…?」

「ここまでお話したのに、まだたとえ話にしたいんですか?」


 できればたとえ話にしたい。

 でなければ、今明の容体が変わると言うことを意味しているのだから。


「もしですよ。〝それがもし、たとえ話じゃなかったとしたら?〟」

「……!」

「あなたはどうするんですか」


 そう言って、姫川は自分の携帯の画像を見せる。

 そこには、自身の火傷を写真に収めたものが写っていた。


「俺は…」

「!まずい、炎上だ…!今すぐ明さんが入院している病院に行かないと、熱傷しているはずです!!」


 姫川は身を乗り出して咄嗟に俺の手を引いた。

 慌てている姫川を見て、俺は逆に冷静になれた。


「……病院へ連絡する」


 と携帯を取り出す。


「今すぐ妹の容態を確認して、状況を教えてほしい」


 病院からは案の定、


「急変しているからすぐに来てほしい」


 と返答が返ってきた。


「やっぱり!急がないと、星野さん!」


 姫川はすぐに病院へ行くことを促す。

 すぐにでも駆け付けたい気持ちを抑え、俺は提案をした。


「あんたに頼みたいことがある」

「……?」


 俺は再度、明のアカウントを指さし


「消してくれ」

「…!」


 俺の言っている意図が理解できたようで、姫川は


「試します!」


 と携帯の操作を始める。

 この端末を使って炎上しているこの発言を消すことはできれば、熱傷の根源を絶つことができるかもしれない。

 その方法にすがってもいいと思うくらいには、俺はこの藁を信用していた。


「あっ駄目だ、画面落ちちゃってパスがわかりません…!」

「パスはこの間指紋認証してから変更した。1234だ」

「……そんな単純なパスワード、妹さんが起きたら起こりますよ」


 なんて言いながら、姫川は携帯を起動させ、発言を消す。


「……これでどんな影響が出るかは…わかりませんが…」


 俺は恐る恐る、病院へ連絡してみる。

 すると、


「発熱はしたが熱傷まではいかず、たった今症状が収まった」


 と報告を受ける。


「……こんな方法もあるんだ…」


 姫川はそういうと目を丸めた。


「一応、病院へ行きたいと思うんだが」

「……乗り掛かった舟なので、ついて行っていいでしょうか」

「助かる」


 俺は、その足で姫川と共に、明の入院している病院を訪れた。

 病院で、自身の目で明の無事を確認する。


「あんたのおかげで助かった。」

「……いえ、判断が的確でした…。端末を使用し発言を現実から消すという方法も有効なこと、気づけてよかったです。今日は、知りたいことが深まった気がします」


 姫川はよかったら、と俺に連絡先をよこした。

 願ってもない協力体制だ。俺はその連絡先を受け取った。


「この後暇か?よかったら、奢らせてくれ」

「……じゃあ、お言葉に甘えます」


 今日の礼と情報共有をかねて、俺は彼女を食事に誘った。


やっとプロローグで出てきていた星野兄妹の話を出せました…!

病院での話が重くわかりにくかった分、少しでも話を読みやすくしていけたらと思ってます。

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