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不安そうな表情をしているオレ専属の侍女。
鍵がない時はドア越しに色々話をしてくれる心優しい彼女は、今生のオレからすれば年上の女性だが、前世のオレからしてみれば可愛い後輩。位の年齢だ。
そのせいなのか……万年ヒキニートだったオレには少々居心地が悪い。
さっきは色々無理難題を突きつけておいて今更なんだが、女性と2人きりで何を話せば良いのやら!?
今の俺が悪役令嬢エイリーンってのは知ってるし、分かってるんだけどさ、エイリーンとして生きている時間より、ヒキニートだった時間の方が長いんだからしょうがないだろ?
しょうがないよな?
「あー……えっと。さっさと図書室に行って本を暗記して来て。あ、あー、その前に、ちょっと部屋の鍵かして……で、ござってよっ」
かなり不思議そうに見つめられ、少々照れてしまい目を背けた先にあったのは鏡。その鏡の中にはフンワリとした青髪赤目の少女が映っていて、物凄く不適な笑みを浮かべていた……。
笑顔が苦手なのは今生でも同じらしい。
自分のギコチナイ笑みを見て幾分落ち着けたオレは、フィンから鍵を取り上げるように受け取って両手に乗せ、神経を集中させた。
鍵に魔力を込めるようなイメージだ。
鍵の隅々まで、型を取るように高濃度の魔力を流し込み、思い切り圧力をかけるようなイメージを送る。
しっかりと鍵の形を覚えさせた魔力を維持したまま鍵をフィンに返し、鍵の形に固まった魔力に向かって今度は金属のイメージを送り込んでみたが、金属製の鍵の出来上がりとはいかないようで、スケルトンな鍵が1つ出来上がった。
「あの……エイリーン様?」
高濃度の魔力を放出させたのに何も起きていない……ように見えているフィンにとっては、自分の掌を得意げに見ているオレの姿はさぞ異常に映っているだろう。
「一応合鍵……見えないんだろうけど、重さはあるし触れる事も出来るし、多分実際に使えると思う。1回外に出て使ってみてくれる?でござるってよっ」
スケルトン合鍵に紐をつけてからフィンに手渡せば、鍵の重さだけがする自分の手を不思議そうに眺め、グッパグッパと手をニギニギして鍵の感触を確かめてから部屋から出て行き……。
カシャン。ガチャガチャ。ガチャ。
「凄いですっ!」
不自然さのない満面の笑顔で部屋の中に戻ってきた。




