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外に出る事も、本を読んで知識を付ける事も咎められているのなら、残されている方法はそう多くない。
全てを受け入れて生贄にされるのを待つって手もあるし、今この瞬間部屋を抜け出してそのまま家出するってのも手だ。
だが、家を出るにはそこそこの力と金がなければ生活していけない。
オレの魔力はそれこそ生贄に選ばれる程なので低くはないが、魔力についての知識がないから水やら火を出す事しか出来ない。もし魔物に襲われでもしたら、戦う術を知らないオレなど数秒生きていられれば良い方だろう。
ならば戦う術を持った護衛を1人連れて行くというのもあるが……問題は、親父の意に反し、疎まれているオレに付いてきてくれる者がいるのかどうかだ。
現時点で1番の味方である筈のフィンですら親父の言う事には一切逆らわないのだから、オレに付いてきてくれる人間などこの家には1人だって存在しないのだろう。
なら他の家の者?
それこそ誰も付いて来ないな。
だったら今の段階で出来る最大級の要求をするしかない。
「フィン。魔力についての本と、剣術についての本の内容を全て暗記してオレに教えるか、全文書き写して持ってきてくれ。それが出来ないならオレは部屋から抜け出して図書室に行きますって事ですわよっ」
少し無茶だったか?
いや、オレが本を借りたら駄目なんだから、フィンが借りてオレに見せてくれれば良いだけじゃないか。
もしくは、本を借りたフィンがオレの支度を手伝うために本を持ったまま来て、その合間に本を読んでいたら、ついついうっかり本をオレの部屋に忘れてしまった。とかさ。
手はいくらでもあるのに、それすら試さずに駄目だと言うのだ、親父の命令は部屋から出すな。以外にも本を読ませるな。なんてのがあるのかも知れない。
折角部屋に閉じ込めているんだから英才教育でもすりゃ良いのに、それすらしないってなんなんだ?その癖魔法学校へ行く前になったらお嬢様な作法を教え込むんだろ?
効率が本当に悪い……。
もしかして、親父は現段階でオレが魔法を使える事を知らない?
オレが魔法を使ったのは物心付くよりも前の事で、この部屋に閉じ込められる切っ掛けとなる事件を起こした……って事は知っていなければ辻褄が会わない。
待てよ?目撃したのが屋敷にいる者だけだったのなら、オレを閉じ込めておきたい親父は皆に口止めして終わっていた筈だ。それなのに魔法学校に通う事になったのは、親父が口止め出来ない程の人物が目撃者の中にいた?それとも、目撃されるのは今後の話なのか。
「エイリーン様?」
あぁ、まだいたのか。