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侯爵令嬢であるオレを何故平民だと思っていたのか。その理解が追い付かなかったのだろう、セミオンは首を傾げたまま固まってしまった。
これでは本当に午後の授業に間に合わなくなるので、軽く説明をする事にした。
もちろん、実家でサル扱いを受けて今まで育った事など教える必要もないので、ナナが執事の娘である事と、光属性持ちである事から侯爵家の養子にでもなるんじゃないか?と、かなり他人事のように話した訳だ。
「いや、だからってなんでお前が平民なんだよ」
それは知らない。
そもそもオレは元より侯爵家の名を名乗っているし、自ら平民だと思われるような行動もとっていない筈だ。更に言えばナナもアヌビアスと名乗っているのだから、始めは侯爵家令嬢扱いをされようとは思っていなかっただろう。
ようは、周りが勝手にそう思い込んだだけの事で、俺がこうして攻められるいわれ等は全くない。
「私が平民ではないとお分かり頂けたのなら、何故声を荒げたのか、その説明をお願いしますわ」
さぁ、長い前置きはこれでおしまい。平民には分からない事とやらを話してもらおうじゃないか。
「いや、俺の事は良いんだ。でもお前のはそれ駄目だろ」
何がどう駄目なのか。
「特に気にしておりませんわ」
きっと何が起きても“やっぱりな”で終わってしまえる自信まである。それこそ、ナナとの出会いイベントを迎えたセミオンがフィンやスティアやドラードと同様、一切の挨拶もなく完全無視してこようとも。
そういうふうにエイリーンの心は出来上がってしまった……だからそこら辺に落ちている石っころとなんら変わりのない、人畜無害な存在の筈……なんだけど、どうやって悪役令嬢に成長するのか自分でも分からん。
「俺は……」
かなり渋々話し出したセミオンだったが、一旦話し始めると蓋が吹き飛んだのだろう、次から次へと言葉が溢れてくるようで、時折口が追い付かなくなって盛大に噛んだ。
幼い頃から何でもかんでも兄であるアフィオと比べられ、セミオンの粗ばかりを見付けてはアフィオを褒める人間に囲まれて育った為、アフィオ自身もセミオンよりも勝っている事を鼻にかけては嫌味を言うようになったらしい。
魔法学校に通って寮に入れば兄と自分を比べる人間から逃げられる、兄から逃げられる……そう思っていた所で同級生として入学なんて、確かに酷い冗談だな。




