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どうせ1人なのだから。と、昼休みに入った瞬間運動着に着替えて中庭のランニングを開始させた。
昼食を食べた後は走るよりも消化を優先させたいので、実は昼休みのランニングは出来ていなかったのだ。
その点池の表面を氷で覆って水にして蒸発させるって魔力の練習は消化に関係ないから、食事をしながらでも出来る。
なので、息が切れて足がガクガクするまで走った。正直やり過ぎたと反省するほどには走った。
こうしていつものベンチに倒れ込むように座った所で、さぁ魔力の訓練だ!とは張り切れないもので、カラカラに渇いた喉を潤す為と、上がった体温を如何にかする為に手から水を出して頭から被った。そうしてから風を起こして全身に浴びれば涼しい事この上ない。
「……悪い。ちょっと、かける言葉が見付からないんだが……」
ジャバジャバと頭から水を被っている所で、頭上からそんな声が聞こえてきた。
ハテ?と不思議に思いながら顔を上げて見れば、そこにはセミオンが立っている。
「どうしたんだ?ですの?」
ナナ達と食堂に行かなかったのか?それとも、行ってきた帰りか?いや、それなら昼休み中はみっちりナナと過ごす筈だ。
「あのなぁ、それそのまま俺の台詞」
何故そうなる?
まぁ、確かに全身ズブ濡れでベンチに座っている人間に対しての台詞だというのなら、セミオンの言葉はかなり全うだ。
ならば時間を取らせないため簡潔に説明しようじゃないか。
「走り過ぎて暑いから水被って休んでいましたの」
でも、そろそろ昼食をとらないと昼休みが終わってしま……。
いつもより時間をかけて作った筈のサンドイッチの入った袋は、さっきからドボドボと出していた水に浸されている。
恐る恐る袋を開けてみれば……非常にウェッティーなパンが入っていた。
「あー、うん……悪い。ちょっと、かける言葉が見付からない……」
サンドイッチなどと洒落ずに今日も大人しくおにぎりにしておけば!
って、今更悔いても仕方ない。水を搾って干せば食べられるかも知れないし、具として挟んだ野菜やハムは問題なく食べられるだろう。
「ちょっとした失敗ですわ。笑って下さってもよろしくてよ」
すまし顔で濡れたパンから野菜を剥がして口に運ぶと、ほんのりとマヨネーズの味が口に広がる。
「そう言われると笑いにくい」
溜息を吐いたセミオンは、いつもと変わらずオレの隣……今はベチョベチョに濡れているベンチに座ったのだった。




