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オレは表向き自由に部屋からは出られない身なのだから、魔法や剣術の習い事をしたいと申し出た所で却下されるのがオチだろう。
そもそも習い事をしても良いのならばリッパナレイジョウとやらになる為の習い事をしている筈だ。
しかしそれもない。
食事の作法や社交ダンスは、フィンが今みたいに部屋に入ってこられた時にチョコチョコとお遊び程度で教えてくれるのが全てである。
設定集を見れば悪役令嬢の立ち振る舞いはかなり優雅だったはずだから、魔法学校に入学する前になって急ピッチで作法を叩き込まれる事になるのだろう。
親父は立派な人物で地位もあるようだけど、根本的な所でアホなんだな。
「図書室に行きたいんだがそれも駄目なのか?で、ござりますってよっ」
通じただろうか……。
「……非常に申し上げにくいのですが……それは出来ません……」
やっぱり駄目か。
「じゃあ、魔法の勉強が出来そうな本と、剣術の勉強が出来そうな本を適当に何冊か持って来てくれると嬉しく思いますことよっ」
はーいかん。
お嬢様っぽい話し方の正解が分からない。
いや待て、そもそもオレはそんなに話さなかったし、フィンにすら必要最低限の事しか言ってなかったから、お嬢様語を知らなかった可能性だってあるぞ?
落ち着け、お嬢様語ってなんだ。
悪役令嬢として転生し数年生きてきたというのに、ちょっと前世の記憶が戻ったからって今まで話していた言葉が吹き飛ぶなんて考えにくい。
つまりは、そう言う事だ。
オレ初のお嬢様語が、今日だったのだ。
「……非常に申し上げにくいのですが……」
本を読む事も咎められるとは!
だからって諦めてやるものか!
ただで生贄にされてなんかやらない。魔王と勇者を探し出し、戦い方を伝授してもらうんだ。その後は守り神を倒して、それから……えっと?
どうでも良いな。
主人公が幸せになろうと、不幸になろうと、誰を攻略するのかさえどうでも良い。
ただ生贄になるだけの未来に抗おうと思うだけ。で、守り神を退治する。
オレが守り神を倒した後この家がどうなるのかなんて、主人公の行く末以上にどうでも良い事だ。
だから、それ以降の事なんて何でも良いし、どうだって良い。