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噴水の掃除依頼を難なく終えた後は食堂への食材運び、ギルド内にある貸し出し用の武器手入れをこなして部屋に戻った。
「いてっ」
疲れに任せてベッドの上に倒れ込んだとき、武器の手入れ中に切ったらしい指に左程大したこともない痛みが走った。
それなのに口から痛いと出たのは、単なる反射だ。
「どこが痛いって?」
すると、回復する気満々のドラードが視界に入って来るものだから、無言で切れた指を見せつつ、大したことないから回復するまでもないとアピールしたんだけど、そうは問屋が卸さなかったようでしっかりと丁寧に回復してきた。
大袈裟だなぁ。
「ありがと」
「どういたしまして」
今日はこの後どうするかなー。
初心者向けのクエストはやりつくしたし、だからって町に買い物に行くってテンションでもないし、お腹が空いているわけでもない。
せめて眠気が少しでもあれば良かったんだろうけど……となれば、考えることなんてのはエイリーンの魂がどこに行ったのかを探ること。
ドラードとコーラルは水木清隆の魂がヒロインだとかいう暴論を唱えているけど、だとしても悪役として登場しているエイリーンに宿るのは可笑しいだろ?
それなら物語中には登場しないけどちょいちょい名前は出ていた魔王だと言われた方がいくらか納得がいく。
闇属性だし。
でも、それだってガンガン回復魔法を受けているのにちゃんと回復している現象を見る限り、ヒールでとどめを刺される魔王な訳がないんだけど……とはいえ、エイリーンの瞳の色は赤で母親は魔物だって可能性が0ではないんだよな。
母親はどうしたんだろ?
ゲーム内には一切出てこないし、オレ自身目覚めたのはプラガット侯爵家に来てずいぶん経ってからのことで、エイリーンの記憶にも母親についての情報はなかった。
産まれてからプラガット侯爵に引き取られるまで、どうやって暮らしてたんだ?
引き取られた時のことも記憶として残っているわけでもないから、物心つく前には母親の元を離れていたと考えられるか。
そうだとしたら、エイリーンの知識は自室に軟禁されている間に読んだか聞いたかしたものが全てということになる。
俺の体に入った何者かの魂がこの世界の魔物を全て再現した訳だから、もしエイリーンの魂が俺の中に宿ったとするなら魔物図鑑を見ていなければ可笑しい。
そうだ、それで魔物図鑑を図書館やら本屋やらで探そうって思ってたんじゃん。
「本屋行ってくる。夕飯までには戻るよ」
何処に行くのか、何時に戻るのかを明確に伝えて部屋を出て、ギルドの受付で本屋の場所を聞いて向かった。
街には何件かの本屋があり、魔法書を多く扱っている店や古書を扱っている店など、それぞれに特性があったので、オレは目当ての本が売られていそうな店の特定に迷うこともなく、また本を探す手間すらそこまでかからずに魔物図鑑を手にすることができていた。
数ページ立ち読みしてみれば、魔物の姿を描いたイラストと共に特性まで書かれていたので、ゆっくり読むためにと魔物図鑑を購入し、さっさと部屋に戻った。
部屋の中は無人だったので、コーヒーを淹れた後は心おきなく読書に専念することができたわけだが……。
「んー」
どのページも見覚えのある魔物の姿が描かれはしているので、オレが昔に書いた動物の絵を切り貼りしたものと認識していたんだけど、一旦それを除外してみれば至って普通というかな、いそうだなという姿ばかりだ。
これなら、この世界の魔物のことを知らなくても、それっぽいキマイラはいくらでも作れてしまうだろう。
この世界の魔物の容姿を作っていたことから、俺の中に入った魂はこの世界の誰かだと思ってたんだけど、それっぽいキマイラを作るだけならこの世界の人間でなくても十分可能だ。
まぁ、それでも俺が最後になにをしていたのかってことを知っていなければキマイラ作りなんてしないだろうから……俺の行動は見られていたのか……。




