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モヤの掃除クエストを受け、全員でケリーが黒いモヤにヒールをかけるところを見学することになった。
古代文字の分析や”クオン””クウガ”について調べているブラックには、黒いモヤ掃除なんて興味ないだろうなと思っていたがそうでもないようで、食い入るように黒いモヤを見つめている。
「では、いきますよ」
黒いモヤに両手の手の平を向け、緊張しているのか、声色も表情も硬いケリーがアナウンス後にヒールを唱えた。
その結果、黒いモヤは特に消えるわけでもなく存在し続けていて、ヒールで掃除ができるということにはならなかった。
「ケリーさん、もう1度ヒールをかけてみてください」
特に変化のなかった黒いモヤから目を離さず、ブラックはケリーにヒールを唱えるようにと言い、ケリーはMPが続く限り1つの黒いモヤに対してヒールをかけ続けた。
なにか調べたいことがあるのだろうと思って黙って見ていたんだけど……本当に特になにも起きない。
「……ブラックさん、一体なんだったんですか?」
そしてケリーは最後まで付き合った後になってからようやくブラックに説明を求め、MP枯渇直前による目眩に襲われているのだろう、その場に腰を下ろした。
「あ、いや……なにか、思い出せそうな気がしたんだ」
ほぉ?
ブラックは自分の名前も思い出せないほど重度の記憶喪失中、記憶が戻れば今調べている”クオン”についての答えがハッキリするんだ、そりゃ必死にもなるわな。
現時点で分かったことといえば、ブラックは黒いモヤとなにかしらの関係があったということか?でも、黒いモヤなんてのは路地裏に行けば1つは必ずあるものだし、駆け出し冒険者でも危険もなくこなせるクエストだから、冒険者であれば誰もが関わることになるモノだ。
なら、ブラックは冒険者だったということ……いや……路地裏を行き来するような人物だった?
結局、なにも分かってないのと一緒だな。
「それで、なにか思い出せたのか?」
ケリーにマジックポーションを差し出しながらカワさんが尋ねているが、そういえばカワさんって、ブラックが記憶喪失なこと知ってたんだっけ?
「いや……なにも」
2人の間で会話が成り立っているのなら、記憶喪失であることを皆にも言ったのだろう。
「なら、この黒いモヤはブラックが掃除してみて」
簡単に消えるし攻撃もしてこないからと説明をしてみても、ブラックは黒いモヤを見つめたまま掃除をしようとはしない。
なにか思い出そうとしているのか……ならソッとしておいた方が良いのかもしれないんだけど、1人にするのが正解だとも思えない。
とは言えこの後なにか予定があるわけでもないし、大人しく待ってみるか。
「キヨタカよ、お前はまだ魔剣士になろうと思っているか?」
立ったままのカワさんは、ファイター系でもメイジ系でもなく未だ”冒険者”のままであるオレのステータス画面を表示させ、レベルの割には高すぎるステータス値を見ている。
オレが魔剣士を目指していた理由は、守り神が物理か魔法に耐性があっても対応できるようにするためだった。
今となってはケリーやドラードといった主要なメンバーが守り神討伐に向けて動き出したので、オレ自身が強くなっておく必要はない上に、討伐する当日にオレは守り神の巣にさえ連れて行ってもらえないと来たものだ。
だとしても。
「もちろん、魔剣士を目指しますよ」
一度目指した道、到達しないわけにはいかないでしょ。




