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レイドは思ったよりも苦戦しているらしく、ナナの所を訪れに怪我人が増えてきたし、徐々にオレノ店でポーションを購入する冒険者も出始めた。
冒険者が言うには海龍の攻撃は全てが毒攻撃になるため、一々毒状態を回復していてはキリがないってことで、瀕死になる手前になるまで毒状態は放置されているのだそうだ。
なので大量のポーションが必要になるそうだが、手前の方の商店ではポーションは売り切れていて毒消しばかりが並んでいるという。
ポーションが売れ残っている商店を手前に再配置して欲しいとの冒険者側の要望は、袖の下で決められたことを覆すには至らず、毒消ししか並んでいない商店の商人達は悪びれたようすも見せず、堂々と一等地に居座っているそうな。
「だからヒーラーの嬢ちゃんがもっと手前の方に来てくれれば解決するんだ」
ここにいるのが勇者なのかも知れない貴重な人物ではなければ、この冒険者の言っていることはもっともだ。
ただ、もしレイドの攻撃をナナが受けでもしたら?
もしナナの傍にいるアフィオが大怪我を負ったら?
この世界には気絶状態を回復させる魔法やアイテムはあっても、蘇生させる魔法やアイテムは存在しない。
「そんな危険な場所にお嬢様を連れて行くことはできない」
冒険者とナナとの間に立ちふさがったスティアは必要以上に攻撃的な気配を放ち、その後ろではアフィオがナナの手を取り厳しい表情を見せた。
この、さも大変なことをされたのだと言わんばかりに冒険者を悪役に仕立て上げる様子には身に覚えがある。
悪役令嬢として存在していたオレも、周りから見ればこんな感じだったのだろう。
思い切り空気が悪くなってしまったので、冒険者はナナの治療屋を避けるようになり、ついでにその隣で店を出しているオレの店にも誰も来なくなった。
通りの向こう側の商店ではポーション不足の上ポーションの値段が吊り上げられたり、購入した冒険者を別の冒険者が攻撃して奪い去ったりと、レイド以上の盛り上がりを見せ始めている。
ナナの治療屋の、オレとは逆サイドの隣側の店主は既に商売をあきらめてしまったのだろう、椅子に座って頬杖を突きながら暇そうに大欠伸だ。
思いっきりしょうがない事象に見舞われたので、致し方なくオレはブラックに手持ちのお金を全て渡し、暇そうにしている店主から帰るだけのポーションを購入してくるようにと物凄い小声で指示を出した。
相場よりも若干高めに設定されたポーションをあるだけ全て買い取ってもまだ若干の余裕があったので、そのまた隣で暇そうにしている店からも少し買い足されたポーションと、オレが用意していたパーション全てを携え、ブラックと2人でポーションをレイドの討伐現場に最も近い商会に行き、買い取ってほしいと交渉した。
この辺りの商店にはポーションが1本もなく品薄になっていたので、常にポーションの補充待ち状態、そこに目立つようにポーションを持ち込んだのだから、商会の店には既に冒険者の列ができている。
「速く買わせろ!」
と、切羽詰まったような冒険者の声が聞こえてくれば買い取らざるを得ないだろう?
ポーションの相場が大体10Gの中、通りの奥の方では早い段階で2倍以上で取引が開始され、今では3倍で売られ始めている。
そんな中でオレは1本19Gで買い取って欲しいと申し出た。
暇そうにしている店主達からは”お隣に悩まされた者同士”ってことで1本16Gで買取れたので、この買取り交渉が成立すれば随分な黒字になる。
「良いだろう」
拍子抜けするほどあっさりと交渉化成立し、こんなことならもうちょっと高めに値段設定すればよかっただろうか?とか思いつつ、本命はポーションだけではないので次の作戦だ。
持ってきていたドラード作の美味しい毒消し1本を、一口分ずつ別容器に移して10個の試供品を作り、そこまで重度の毒状態ではない者で、下がってポーションを飲んで体力を回復中で、更には声の大きそうな攻撃職を選んで試してもらった。
「なんだこれ、毒消しか!?」
うん、とても良い反応だ。
「効果は実証地味で、味も毒消し独特の苦みやエグミを押さえた一品です。レイド後の最後の1杯に世にも珍しい毒消しは如何です?」
「おお、くれ!いくらだ?」
「商品は通りの最奥にある店に陳列してあります。レイド討伐後にお越しください」
と、まぁこんなやりとりを10回繰り返して自分の店に戻り、レイド討伐終了を待った。
ドォーン!
討伐現場の方角からひときわ大きな破壊音が聞こえ、慌てて視線を向けると土煙が立ち込めていてその奥に蛇のような東部のシルエットが見えた。
どうやら海龍が陸地に打ち上げられたようだな。
ここからは近接攻撃職の独壇場になるから、討伐まではそうかからないだろうけど、海水で毒が薄まらないから空気中に漂う毒成分の被害は広がりそうだ。




