22
レイド討伐前日、討伐の舞台となる港町に到着してみれば、討伐に参加する冒険者や当日に商店を開く商人だけではなく、討伐後に開かれるオークションの参加希望者とか応援にかけつけた令嬢などでごった返していた。
当然、宿屋なんてものは身分の高い人達だけが使用できるので、本来ならば労われるはずの冒険者は町の外でテントを張って野宿することになっているようだ。
なんで討伐する冒険者にハンカチを渡すだけの令嬢がふかふかベッドで眠て、討伐に参加する側が硬い地面で寝なきゃならんのだ。
とは思うものの……冒険者に交じって同じようにテントで雑魚寝をする第2王子ってのもどうなんだろうか。
ちなみにナナ達の現状は、討伐に参加するのはゼゼラとフィンの2人で、ナナは商店の並ぶ比較的安全な場所で治療屋を開くとのこと。
その治療屋をアフィオとスティアが護衛するのだとか。
オレの店の護衛は結局見つからなかったので、ラルとブラックに頼んだ。
2人は確実に戦闘向けではないんだけど、護衛のいない商店の出店許可を取り下げるとか言われてはしょうがない。
さて、明日に向けて今日は今日とて開店だ!
商品はもちろん、戦いから無事に帰ってこれますようにとの願いを込めたタッセル。
今日は素材ではなく、完成品を売ることにしたんだ。
突然思い人がレイドに参加すると知って作る時間が取れなかった令嬢や、用意しようとしたけど上手く作れなくて渡すことをあきらめてしまった令嬢、果ては渡したい人数分用意できなかった令嬢がターゲット。
なのでオレは眠れない夜間の暇な時間の暇つぶしとして白いタッセルを作り続けていたんだ。
何故白にしたのかというと、一種のパフォーマンス。
完全な完成品を買って相手に渡すのと、最後の仕上げだけはちゃんと自分でやったものを相手に渡すのとでは気持ち的に違うかなーって、それだけの理由なんだけど。
「あ、あの……この、最後の仕上げというものは簡単なのでしょうか……」
開店してから1時間してようやく1人の令嬢がコソコソとやってきた。
そうか……もっと大繁盛すると思っていたのに人が来なかったのは、自分で用意できないことに対しての恥じらいがあるからなんだな。
確かに……うん、あなたタッセルも作れませんの?とか地位の高い令嬢とか言いそうだわ。
完全にターゲットのリサーチに失敗したわ。
「最後の仕上げは色を入れることです」
「い、色を後から?」
「色を指定していただければ、その染料を用意します。お嬢さんはその染料の中に相手の無事を祈りなが白いタッセルを浸すだけなので、難しい作業はありませんよ」
それならできそうだと令嬢は1本のタッセルを購入し、再びコソコソと帰って行った。
「どうするかな……」
好きな色に染められるタッセル教室という方向性にした方が良いか、後から色が入れられるという珍しさを前面に押し出してみるか……なんにせよタッセル自体をオレが作ってしまっているのだから、
意地悪な令嬢からの「あなたタッセルも作れませんの?」攻撃を避けることはできない。
「随分寂しいことになってんな。1本食うだろ?」
店の前に誰もいない状態がその後も続き、店仕舞いを考えていた頃になって串焼きを手に持ったノータスがやってきた。
食べると信じて疑っていないノータスは、ニカリと良い笑顔で串焼きを1本オレに差し出している。
お腹空いてたし食うけどさ……。
「店の方向性を完全に間違ってさ、朝から1本しか売れてない。串焼きありがと」
軽く首を傾げたノータスは、オレが売っているタッセルを見ると苦笑いを浮かべた。
令嬢の特性ってのが全然分からなかったんだからしょうがないじゃんか!
それにこれは売ろうと思って作ったんじゃなくて、暇つぶしに作ってただけだし!
「エイリーンが作ったのか?」
「あぁ。物は悪くないだろ?」
だからアクセサリーにリメイクしたり装飾にしたりして使い道はあると思う。
ただそれが今ではないってだけで……。




