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時間が許す限り乙女ゲームをプレイし、さまざまなエンディングを見てきたが、今朝になってようやくゲームの達成率が50パーセントを少し超えた。
「エイリーンおはよう」
胴体にきつく布を巻きつけて朝の支度をしていたところ、部屋の外からノック音と共にそんな声が聞こえた。
声の主はドラード。
攻略対象者であり、ドラードルートに乗っていない場合の死亡率がほぼ100パーセントの薄命キャラクター。
その死亡イベントの中には首都の広場での公開処刑があった。
ルートによって罪名が変わっていて……経験した通り、“アフィオの暗殺未遂”の場合にはギリギリのタイミングで冤罪であると分かり、処刑されない。
ただ、広場に見世物として置かれた間の怪我の回復が追い付かず、衰弱死する。
オレがいなければ、ドラードはそのストーリー通りに死んでいた……でもあの時ナナとセミオンは広場にいたけどドラードを助ける素振りは見せてなかった。
冤罪の証拠を持ってくるまでの待機時間だったとか?
とにかく、処刑イベントが起きた時点で、ナナはドラードルートには乗っていないことが判明した。
ただ、その後何事もなかったかのようにドラードはナナマジックにかかって、仲良くオレの財産をナナ一行と一緒になって売り捌いて、隣国の王太子への誕生日プレゼントを買うってイベントに参加してたんだよな……。
なんだろ、都合のいい所ではセミオンルート、また都合のいい所ではアフィオルートって感じで、結局はナナの都合の良いストーリーが流れている現実世界では、ゲームをプレイし尽くしても未来を知ることはできない気がする。
ストーリーから抜けるってことは、エンディングを迎えることではなくて主要な登場人物全員から死んだと認知されることなんじゃないか?
だとしたら……オレの中に核があるドラードは騙せないから、オレはこの先一生ナナの脅威に怯え続けることになる。
冗談じゃない。
よし、ゲームをプレイして見るのはこの世界の未来じゃなくて、ドラードの核の返還方法と“クオン”という人物が登場するかどうかに絞ろう。
「おはよ。オレはまた部屋にこもるから、ゴーレムづくり頑張ってくれ」
「……分かった」
バリアの中に籠って、ゲームを始めた。
違う。
このルートでもない。
違う。
違う。
またドラードが死んだ。
違う。
違う。
違う。
エイリーンが死んだ。
幾度となく見たエンディング。
なんの感情もなくコンティニューをしようとして指と目が留まる。
「ハードモードでプレイしますか?」
恐らくはさっきクリアした時になにかしらのフラグが立っていて、クリア特典としてモードが解放されたのだろう。
もしかしたら達成率か?
いや、そんなことはどうでも良い、とにかく今はハードモードをプレイしてみなくては。
これまではヒロインが魔法学校に入学する所からゲームが始まっていたが、ハードモードは違っていた。
自由に出られない自室の中で、満足な食事も与えられない場面が続き、部屋に入って来た父親と思われる影がヒロインの腕を後ろ手に縛り、部屋の鍵を開け放ったまま出ていった。
部屋から出てみれば屋敷内には魔物の姿。
ヒロインは自分が囮に使われたのだと知り絶望する。
という感じで始まった。
始めこそエイリーン視点かとも思ったが……屋敷にいた魔物と逃げる父親、屋敷に取り残された令嬢と言えば、現実でも覚えがある。
ハードモードのヒロインは、ケリーだ。




