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手紙の内容は滞りなく読めるし、内容についてもなんとなくは見えるんだけど、果たしてストーリーとどう関係があるのかまでは分からない。
全てを忘れても忘れないでという書き出しから、手紙の送り主はメガネ君が記憶を失っていることを知っているし、クオンって奴を呼んだことで記憶がなくなったんだろうなってのも分かる。
まぁ、要するにクオンって奴を呼ばなきゃ良いだけの話。
で、それは誰なんだ?
描いた覚えがないんだからモブなんだろうけど……隠し攻略対象者と深い深いかかわりがありそうな人物が、顔のグラフィックもないモブで良いのか?
もしかしたら、役職で呼ばれているような人物、もしくは冒険者の内の誰かの本名?
「呼ぶな……家に招くという意味だろうか?しかし知らない人物をどう招くんだ?」
知らない人物を招くのは確かに難しくはあるが、役職でしか認知されていない人物や冒険者の本名なら知らずに招くってこともあり得る。
「名前を言うなってことかも知れないぞ?」
にしても、呼ぶな、か……古代文字で手紙を残す程のこととは思えないから、なにかしらの深い理由があるんだろうけど、当人が記憶ないというんだからこれ以上調べようがない。
記憶を取り戻す魔法かアイテムかがあれば別だが。状態異常ではない限り魔法での回復は難しいだろう。
ドラードの催眠的な治療を受けてもらう?っても、あれもオレの中にドラードの核があるから出来ていたようなもんだしなぁ。
「とりあえず、この単語は口にしないようにする」
今のところはそれしかないよな。
「じゃあオレは部屋に戻るから……そういえば、名前は?」
危うく本人に向かってメガネ君って言う所だったわ。
「冒険者登録はブラックだ」
偽名を教える訳ね。
とは言ってもブラックは2年前からの記憶しかないから、どのみち本名ではないのか。
「ブラック、また後で」
手を軽く振れば軽く振り返してくる顔は、流石攻略対象者といったところなのだろう、無駄に整っている。
2年間古代文字研究を続けてきた理由となる手紙の解読をあっさりとしてしまったから、燃え尽き症候群みたいになるかもなーとか思ったけど、その心配はなさそうで、今度は“クオン”について調べてみると意気込んでいる。
呼ばなければなにをしても大丈夫。という認識のようだ。
まぁ、オレも乙女ゲームに“クオン”についての手がかりがあるか、注意して見てみるよ。
自室に戻り、攻略対象者達によるヒロイン贔屓テキストを読み進め、時々あるミニゲームなんかをクリアして、誰を攻略するか深く考えずに思う通りの選択肢を選び、攻め立てられるためだけに現れるエイリーンに感情移入し過ぎて、須らく攻略対象者が嫌いになり。
クエストに出かけて行ったクロさん達が帰って来た気配がして、ベルノーズが夕飯だとオレを呼びに来る頃にクリアした。
クリアと言って良いのか……どうやら攻略対象者達に嫌悪感を抱き過ぎたせいで、卒業パーティーまでに誰1人として落とせなかったのだ。
いわゆる友情エンドという奴。
友情エンドであってもエイリーンは生贄に選ばれたようで、エンディング前のテキストで「生贄になった」と軽く語られて終わった。
ヒロインが冒険者にすらならなかったからなのか、最後に手掛けたあの赤いドラゴンによる踏み潰され画の出番はなかった。
確かに、ヒロイン視点のストーリーにエイリーンの最後があるってことは、その場にヒロインがいたってことだもんな。
なら2週目は冒険者になれそうな選択肢を選ぶとするか……とりあえず、全員分の自己紹介後までスキップして……。
「タロー、ご飯できてるよ!」
おっと、そうだった。




