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自室の中、人に見られないようにと氷魔法で出現させたバリアの中でプレートキーチェーンに向かう。
ゲーム用のコントローラーが欲しい所ではあるものの、乙女ゲームは基本的に選択肢を選びながらクリックするだけで良いので、マウスでも十分事足りる。
この世界の元になっている筈の乙女ゲーム、グラフィックのコンプ率を100パーセントにするまで、やりつくしてやる!
そう思ってプロローグにあたるだろう部分を進めて、画面の端に映り込むようなヒロインの後ろ姿を見て、やはり違和感。
その違和感の正体は、案外速攻答えが知れた。
プロローグが終わり、ヒロインが魔法学校への入学前のクラス分けを決めた桜の木の下。
メインの攻略対象者が勢揃いしている桜の木に向かって走るヒロインが振り返り、タイトル画面になる。
そこで俺が描いた覚えのある絵がドーンと画面いっぱいに表示され……。
「ナナじゃないよなぁ?これ……」
ゲームは俺が描いた絵が使われているので2次元だけど、この世界は3次元だから、言ってしまえばこのゲームの実写化。
だからある程度イメージと違うな……ってキャラクターがいてもなんの不思議もないんだけど、それにしても2次元の創作物としては“髪色でのキャラ描き分け”ってのがある位には髪型とか髪色は重要なんじゃないのか?
それなのにヒロインとナナの髪色が違うし、ナナのようなフワッフワとした髪型でもない。
ヒロインは感情移入しやすいようにって思いながら描いてたから、ある程度はプレイヤーの容姿に近付く……のだとしたら、ナナはプレイヤーってことになるのか?
いやいや、それだと日本語である古代文字が読めないことの意味が分からないな。
姉の作った乙女ゲームが別の異世界で流通しているとは思えないから、ナナがプレイヤーである可能性はかなり低い。
コンコン
丁寧な攻略対象者1人1人の自己紹介が続くシーンが終わった頃、部屋をノックする音が響いて、時間を確認すれば朝の8時。
こんな朝早くに訪ねてくる人物の心当たりは……結構いっぱいいて分からない。
ゲーム画面を閉じてバリアを消した後、ドアの向こう側にも届くように魔力を流す。
ステータス画面を確認すれば、訪問者がノータスとケリーであることが知れて、そこでオレはそのままドアを開けた。
ここで訪ねてきたのがクロさんとかカワさんなら、キヨタカ仕様に変更する必要があったからな。
「お二人ともおはようございます。早いですわね、如何いたして?」
ゲーム内の自己紹介ではノータスは熱血漢で、実際に熱血漢だからゲームとの差はなさそうだ。
「おはよ。なっ、久しぶりに訓練しようぜ!」
脳筋も熱血漢の内、かな?
「わ、私もお願いしますっ!冒険者として経験は積んできましたが、私自身で戦ったわけではないので……イザって時のために戦い方を知りたいです!」
ランクCの冒険者だというのに冒険者でもなんでもないエイリーンに習おうとする位だ、クロさんとカワさんは恐らく採取系のクエストとか物探しとか、安全なクエストしか受けなかったんだな?
オレの時とは偉い違いじゃないか。
まぁ、訓練する状態が同じなのなら、生徒が1人増える程度、なんてことはない。
とは言っても、2人で簡単な討伐クエストに行った方が効率は良いんだけど……まぁオレの運動不足解消にもあるし、別に深く考えなくても良いか。
「良いですわってことよっ。動きやすい服装で中庭にいらして」
訓練メニューはどうするかな……いや、まずはどの程度実力を付けているのか見せてもらおうか。




