12
周囲の理解力の高さには頭が下がる。
もちろん皮肉だ。
西の国境を守っているのはプラガット侯爵家だとは周知の事実だろう。
オレは特に偽名を使う事もなく本名のプラガット・エイリーンとして魔法学校に通っている。なので当然教師も、生徒も、オレが侯爵家令嬢だと分かる筈だよな?
普通に“プラガットさん”とか呼んでおきながら、何故オレを平民だと思うんだよ。
そしてアヌビアス・ナナと名乗っているナナを何故に侯爵家令嬢だと思えるんだ?
そりゃーナナの方が令嬢らしい作法を身につけているけどさ、だからって可笑しいだろ……親父も執事もスティアの親父もひっくるめて、皆アホなのか?
恐らく親父達は光属性であるナナを侯爵家令嬢という事にしたかったのだろうと思う。だからオレよりもナナを優遇しているんだろう。
だったら、ナナもプラガットと名乗らせとけよ!
「ばっかじゃねーの」
思わず声に出てしまったが、中庭を走る俺の呟きなど誰の耳にも届かない。いや、走っていなくともオレの言葉に耳を傾ける者など……
「平民は言葉使いもなっていないのだな」
いるのかっ!
ビックリして声のした方に顔を向ければ、そこにはさっきまでナナに汗を拭われていたノータスがいて、オレのスグ後ろを走っていた。
ここまで完璧に平民だって思われてるんじゃあ本当の事を言っても信じないだろうな。それに、生贄にさえ選ばれたら良いんだから平民だろうがなんだろうが特に意味はない。
そう、超絶嫌われようが構わないんだ。
「言葉遣いが丁寧なら強くなれますの?ここは魔法学校で能力重視。で、私は1組で貴方は2組じゃなかったかしら?」
久しぶりに喋るからついつい本音が出過ぎてしまった。
「ふん、俺はそもそも騎士を目指している。魔力よりも体力だ」
確かに体力はあるんだろうな、騎士の訓練でバテなかったし。けど、所詮は良い所のお坊ちゃん。
限界のそのまた向こうにある限界になど到達した事もないのだろう?
毎日黙っているだけで良質な食事、上質な服、清潔な部屋が用意されていたんだろ?
使用人達からサル呼ばわりされた事もないんだろうし?
3階の窓からしか出入りが出来ない状況には遭遇した事もないんだよな?
日がな1日鉱石で出来た棒状の物を素振りしていたオレとは基礎が違うんだよ!




