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「落ち着いたか?」
いくら待ってもエイリーンが出てこないことを、どうやって受け入れたら良いのか分からない。
いや……出てこないんじゃなくて、いないんだ。
ドラードの言うように、オレがエイリーンを取り込んだとでも?
異世界から転移してきただけのオレが?
もし転移してきたのが姉だったのなら、その理屈に納得がいく。
なぜなら姉はこの世界を作った創造神ともいえる存在だから、レベルマックスの勇者より、魔王よりも強力な存在になれたはずだ。
チートスキルとかバンバン使ってさ、内容だって頭に入ってるんだからナナマジックの秘密だとか仲間だと思ってた奴が急に敵になるとか、そんな恐怖感すら持つ必要もなかっただろう。
転移してきたその日のうちに、エイリーンの魂を自由にすることだって難しくは……。
「……悪いな。もう大丈夫だ」
実際に転移したのはオレだ。
エイリーンが創造神ではなくオレを選んだ理由があるのだろう。
物凄く都合良く考えれば、エイリーンの魂は他の場所に行って本当の意味で自由を手に入れたのかも知れない。
人を自分の中に転移させられるんだ、自分を人に転移させることだって出来ても可笑しくない。
だとすると……何処に行ったんだろう?
「エイリーンの中には、もう他の人格はいない、のか?」
オレ以外に?
「誰の気配もない。もう、オレしかいない」
他の人の魂がいる感じはないし、誰かの意識がある感じもないし、エイリーンがいた時のような頭の中にモヤがあるような感覚もない。
頭の中に、モヤ?
そうだ、もしドラードの言うようにオレがエイリーンを取り込んだとするなら、エイリーンしか知り得ないような記憶がオレの中にあるってことにならないか?
例えば、エイリーンの母親は誰なのかとか、中庭で拾った石の正確な場所とか……。
「……」
分かる訳ないわな。
オレの母親といったら地球に住んでてビール大好きで、時々生存確認の為にオレの様子を見に来ていた人だ。
「……少し話せるか?」
少しボンヤリとしていたオレの前に、ドラードが無理やしに視界に入るような体制でジィッと見てきた。
柔軟体操でもしているかのようなその格好に、少しばかり場が和……みはしないが。
「大丈夫だ……話してくれ」
どんな話なんだろう?
ナナの所に戻りたいとか、ナナ本人が冒険者登録されていることに気が付いてしまったことか、それとも商人の真似事についてか?
「エイリーン達が教会に行っている間、ギルドで興味深い本を見つけたんだ」
そう言ってカバンの中から結構分厚い本を取り出したドラードは、ペラペラとページをめくると、興味深いという部分を丁寧にも指を差しながら見せてきた。
そのページには大きな挿絵が描かれていて、それは教会でも見た絵にも似ている構図だった。
勇者らしき5人と戦っている1人の黒い影のように描かれた魔王と、両者の隣で封印される大きなドラゴンの姿。
だけど、教会の絵とは違い、この挿絵には封印に使われている5つの道具も描かれている。
「これは……どういうことだ?」
「封印されているのがこっちのドラゴンだとすると、その周りに描かれている物が封印に使われたという古代道具なのではないかと思って……」
そこはオレにも分かった。
そうじゃなくて……描かれている道具に問題があるんだよ。
オレの私物じゃないんだから。




