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地中で念のためにコンタクトモドキとカツラモドキを新調し、100歩進んだところでコッソリ地面から顔を出せば、都合の良いことに路地裏に出た。
入り組んだ路地裏を進んで、自然と足が止まったのは何度も足を運んだことをある店の前。
と、極々当たり前のように脳裏に浮かんでくるのは、美味しそうにこの店のサンドイッチを頬張るドラードの姿だ。
「……?」
なんだろうか、この感じ。
幸せそうに食べていた顔を思い出すと、妙に可哀想に思えてしょうがない。
いや、可哀想というよりも悲しいのか?
違うな……寂しいでもないし、空しい訳でもなくて、ちゃんとした感情にはなってはなくて、ギュッとしてる。
うん。
ギュッとなってる。
ドラードか……ナナのことが好きなのにナナマジックにかかり切れず、本来なら敵であるオレに自分の核まで与える羽目になった悲劇の攻略対象者。
処刑されるギリギリになってもナナからは助けてもらえず、見捨てられてもなお目で追いかけるほどナナを愛してやまない。
それなのにオレと一緒に行動しなければならないなんて、可哀想……。
あぁ、可哀想で合っていたのか。
今の現状とはかけ離れている、平和だった頃のドラードの笑顔を思い出したせいだ。
笑顔なんて、ここ最近見てないもんな……ナナの所には帰せないのは決定事項、だったらせめてもう少しは優しく接した方がいいのかも知れない。
信用は出来ないけど、それでもこれまで冒険した中で助けられたことは沢山あるし、なんやかんやと頼みごとを聞いてもらってきた。
色々やってもらっておきながら、信用できないってのも酷い話だな。
まぁ、どのみち最終的な戦いには連れていくつもりがないんだから、裏切るとか寝返るとか気にしなくてもいいんだけどさ。
それに、最後の古代道具は恐らくパソコン本体。
パソコン本体が手に入ったら、このゲームを1回はプレイしないと気が済まないし、なんなら自分の描いた絵をコンプリートするまでプレイし尽くしたい。
パソコンが手に入ったら結構な時間ひきこもることになるから、それまでにはドラードもベルノーズも解放するつもりだ。
流石に乙女ゲームをしている様子をズット見られているのは、恥ずかしいし。
なら、それまでの間出来る限り普通に接することにしよう。
ナナマジックとか核を返す方法とか考えたってどうせ答えは出ないし、手っ取り早く答えを知る術はフラッシュメモリーの中にある。
じゃあ、パソコン本体を手に入れることを最重要項目とすれば良いだけじゃないか。
ナナ側の人間に見つかって捉えられて処刑。って流れにだけ注意しておけば、実は昔と同じように平和に暮らしていたって問題はないんだろう。
まぁ、流石にプラガット侯爵領にある家に住む訳にはいかない……いや、むしろ帰る?
ナナ側の人間も、敵が何処にいるのかが明確に分かっていた方が安心するかもしれないし……いや、アフィオならともかく、スティアなら確実に夜襲を仕掛けて来そうなものだけど、そういえばドラードとベルノーズは冒険者なんだからいつでも居場所はナナ側に知られているのか。
うん、今後の方針が少し見えた所で、お土産を買って帰るとしよう。
ドラードがオレに笑顔を見せてくれることなんて、もうないんだろうけど……。
「え……?え?わっ、これ、俺に?エイリーン、ありがとう」
眩しっ。




