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勇者の棺の前、黙ったまま座り込んでいるナナの正面に座り込み、火傷の個所に水を当てて応急処置を続けること、多分1時間ほど。
今頃外ではナナのプレートキーチェーンを探す攻略対象者達が地面を掘っていることだろう。
結局のところ、ナナは勇者の棺に書かれている文字は読めなかったようで、古代文字研究にも役に立ててないのだと言って落ち込み、今に至る。
なにか元気づけられる言葉でも言えればいいんだろうけど、よく考えてみればナナはエイリーンの敵だし、ナナマジックの謎もあるし、第一ドラードを処刑させようとした人物。
到底信用できる人物ではない。
不自然なことが多く起きてることから、今この瞬間がストーリーである可能性だって十分に考えられる。
「はぁ……そろそろ帰らないと、ですね」
そう言って顔を上げたナナの表情は、かなり暗いんだけど、それがまた余計に儚げに見せてくる。
「お嬢さんは、オレが人攫いだとは思わないんだ?帰す気がないかもよ?」
ここにいるのがオレでなければ、まず間違いなくナナは攫われているだろう……プレートキーチェーンまで破棄したんだから犯人からしてみれば都合が良いし。
まぁ、オレにはそんな気ないけどさ。
「フフッ、ジロー様は人攫いであっても悪い人ではありませんもの、怖くはありません」
おっと、オレは攻略対象者じゃないというのに、攻略されてる気になるわ。
もしかして、今日ナナを攫うイベントが起きようとしてたってことか?
え?どこかにいる隠し攻略対象者の貴重な好感度アップイベントを奪ってしまった感じだったりして?
そうだよ、こんな街中で王子2人が揃って戦闘態勢でいたってのがまず可笑しいじゃないか。
うわ~……隠しキャラの人、ごめん。
「えっと、じゃあそろそろ地上に出ようか。っと、その前に火傷の治療をした方がいいんじゃないか?」
そうですねと呟いたナナは、自分の腕に出来た火傷を軽く撫ぜ、綺麗に火傷の跡を消した。
こんなにも一瞬で治せる上にMPの消費もそこまでなさそうな所を見ると、オレの応急処置なんか無視して回復魔法を使えばよかったのにと思う。
何故ナナは水で冷やして欲しいと頼んできたのだろう?
「……ジロー様も魔法学校を卒業されているんですよね?この国の魔法学校ですか?」
急に質問?
まぁ、今だけの設定だし、適当に答えても大丈夫かな?あ、でも卒業者名簿を見られると厄介だから、他の国出身ってことにしよう。
「魔法学校は卒業してるけど、パシックだよ」
あ、船に乗らないと行けないトランにしとけばよかったかな。
「あの!魔力を高める方法をご存じでしょうか?私、光属性を強化しないといけなくて……」
光属性を高めないと駄目ってことは、勇者になるための準備期間って所か。
しかし、魔力の強化なんてのは魔法学校が最も力を入れて教えていそうなものだけど?特に光属性の強化は、王族を巻き込んでの壮大なプロジェクトになってそうなもんじゃない?
そうか、他の国ではどんな強化方法をしているのかって情報を求められている訳だな?
「冒険者登録済みなら、ダンジョンに行って魔物倒してレベル上げていけば嫌でも魔力のステータスが上がるぞ」
まずは討伐クエストが受けられるように見習い冒険者のレベルを上げないと駄目だけど……黒いモヤ退治とか、広場の噴水掃除とか。
「……光の属性だけを上げる方法は、ありませんか?」
レベルを上げていけば魔力だけじゃなくて体力とか力も上がるんだけど、それは望まないようだ。
勇者になる訳ではない?
「属性を強化するなら、その属性の魔法を使うのが効果的だ。お嬢さんは光属性だから、無属性魔法を使って基本となる属性を均等に鍛えれば良いんじゃないか?」
オレがそうしているように。




